<吉井小百合の目>耐えてイン守り切る

2018年2月25日

 ずっと優勝候補のオランダの選手をマークしていた菜那。その後ろには、韓国の強敵金ボルムがぴたりと付いていた。勝負の分かれ道は最終コーナー。いかにインコースを開けないか。

 400メートルのコースを16周。最もスピードが出るコーナーは、最も体に負荷がかかる。しかも通常のレースとは異なり、最内側を滑るマススタート。出口でオランダの選手は膨らんだ。隙を見逃さなかった菜那はすごかった。

 だがすごかったのは、あの小さなカーブで脚の負荷に耐え、インを開けなかったこと。一般的に韓国の選手はショートトラックの経験が豊富で、コーナリングがうまい。あの場面、菜那が30センチでも膨らめばインを突かれていた。

 155センチの小さな体。コーナリングで有利に働くこともあるかもしれない。ただ、トップスピードや負荷に耐えるための筋肉量は体格の大きな選手が勝る。小さな体で加速し、耐えてインを守り切り、滑り抜けた。戦略も見事だったが、それを可能にする脚があったからこそ。

 2011年の入社時、コーチの私たちに1000メートルへの挑戦を訴えた菜那。適応能力は確かにあると感じた。だが、まだ若く、可能性を秘めていたため、長距離を続けることになった。その長距離を続けたことで上り詰めた頂点。持っている潜在能力が最大限に発揮された金メダル。彼女の成長がうれしくて、たまらない。 (元日本代表)

中日新聞 東京新聞

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