花形の流儀 ノルディック複合・渡部暁斗

「王者の遺伝子」を受け継ぎ、平昌で表彰台の「真ん中」を狙う渡部暁斗=2017年11月26日、フィンランド・ルカで(共同)

真ん中に立つ 日常から

 「ルーティンがないのが僕のルーティン」。ノルディックスキーの複合で日本勢を引っ張る渡部暁斗(29)=北野建設=は、勝負に挑む決まり事を決めない自身のスタイルを、そう言ってはばからない。日々の練習メニューは「体調や気分で」と、その場で内容が変わることもしばしばだ。

 ある日の室内練習で、ジャンプの顎を引く姿勢を矯正していた時のこと。普段は粘着テープの輪の部分に顎を入れて胸で挟んで行っているが、その日はテープが手元になかった。すると渡部は意に介さず、靴下を丸めて代用した。「決められたことをやるのは簡単。それより、瞬間の自分の体の『声』に耳を傾けることで、臨機応変に慌てず対応できるようになる」

リレハンメル五輪、優勝した複合団体で、ゴールする荻原健司さん=ビルケバイネレンで(共同)

 風をとらえて遠くを目指す前半の飛躍と、ライバルと駆け引きしながら一歩でも先んじる後半の距離で争われる複合は、刻一刻と変わる気象状況やレース展開に対応しないといけない。だからこそ臨機応変さが欠かせないという。

 その時々の感覚を大事にする一方で、意識的に刷り込まれてきた「無意識の行動」もある。例えば「トイレは3つあったら真ん中を使う」。表彰台の頂点をイメージして、日常生活から「真ん中」に自分を置くのだ。渡部にそう意識付けしたのは、所属先のスキー部の荻原健司ゼネラルマネジャー(GM)だ。

 現役時代に3度のワールドカップ(W杯)個人総合優勝を誇る「キング・オブ・スキー」。冬季五輪では渡部がまだ幼少だった1992年のアルベールビル、94年リレハンメルの両大会の複合団体で金メダルに輝き、「複合ニッポン」をけん引した。時を経て、社会人となった渡部をチームに迎えて以来、後輩に伝えてきた「王者の遺伝子」。五輪や世界選手権で何度も表彰台の真ん中に立ってきた荻原GMは、「常に心掛けてもらいたい」と話す。

 選択肢が偶数の場合はと聞けば「それは自分で決めること」と笑いながらも、荻原GMは「意識付けというか、習慣にすることが大事。『あ、まずい。俺ここじゃなかった』と後で気付くのではなく、無意識にやるようにする」とその重要性を説く。

 同じチームに所属する渡部の3つ年下の弟・善斗も「僕は暁斗から聞いた。(荻原GMが)言っていたからおまえもやれ、と。実践することで(表彰台の真ん中を)譲らない、という気持ちが最後の最後に出るんじゃないか」とその効果を説明する。

 意識しなくても常に「真ん中」にいること。渡部も実践しているが「それだけで表彰台に乗れるなら苦労はしない」。現実も理解しているから、ルーティンにこだわらずに対応力を磨き、トレーニングで人一倍の努力を重ねる。平昌での目標は、銀メダルだった前回ソチ五輪を超えること。「金メダルをとる。目標として当然のこと」。渡部の目には、表彰台の「真ん中」しか見えない。 (上條憲也)

渡部暁斗の五輪全成績

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