江陵オーバルで行われ、小平奈緒（３１）＝相沢病院＝が３６秒９４の五輪記録で初優勝した。金メダルは日本スピード勢で女子初の快挙で、１９９８年長野五輪男子５００メートルの清水宏保と合わせ２つ目。日本の冬季五輪通算は１２個となった。今大会ではフィギュア男子の羽生結弦に続いて２個目の「金」で、メダル数は最多だった長野五輪の１０個に並んだ。小平は２０１０年バンクーバー五輪の団体追い抜きと今大会の１０００メートルで銀メダルを獲得しており、３度目の表彰台となった。１０００メートルでは昨年１２月に世界記録を樹立し、５００メートルは昨季から国内外で２５レース無敗となった。

　ついに歴史の扉をこじ開けた。金メダルが確定した瞬間、小平は大きく両腕を広げた。日の丸を渡されると涙があふれてきた。ウイニングランでは、韓国のライバル李相花（イ・サンファ）と抱き合って健闘をたたえ合った。

　日本スピードスケート陣の金メダルは９８年長野大会の清水宏保以来２人目。当時１１歳、憧れのヒーローに心躍らせた少女が２０年の時を経て、日本女子初の快挙を成し遂げた。

　「たくさんの人たちが喜んでいる姿を見て、本当にうれしかった。実際見た景色は涙でかすんでいて…。ほとんど皆さんの顔が見えなかった」

　一瞬の焦りも関係なかった。スタートは「ミスったな、というところはあったけど、意外と自分の体が冷静だった」。最初の１００メートルを１０秒２６の好タイムで通過すると同走のエルバノバ（チェコ）を置き去りにした。タイムは低地ベストとなる３６秒９４。「これで金メダルじゃなかったら仕方ない」。そう思った直後に滑った李相花が３７秒３３。最終組の２人にも追随を許さず、歓喜の瞬間が訪れた。

　「２２カ月計画」がついに完結した。古武術、短距離走、ヨガ…。オランダ留学を終えてからの２年間、結城匡啓コーチ（５２）が立てた計画のもと、体を鍛え、あらゆることに挑戦した。順調に進化を遂げて、Ｗ杯の５００メートルは１５連勝中だ。今大会の１０００メートルで銀メダルだったが、「３位以内が５００メートル金の方程式」と前を向いた。さらに前日には同じ結城門下生で１９日の男子５００メートルに出場する山中大地と同走。「感覚が５００モードになった」。最高のエンディングを迎えた。

　長野市内にある自宅の本棚にはある洋書がある。留学先のオランダ人コーチがオランダ語で書いたスピードスケートの入門書だ。結城コーチいわく「いずれ日本語に訳していいかと本人（著者）に聞いていつでもＯＫだと。それを小平にやってもらいたいと思っている。選手をやめたらね」。日本にはない子供向けのスピードスケート書。オランダ語を習得した小平としては日本語版の発行は新たな夢。その前に子供たちに夢を与える偉業をやってのけた。

　今回の五輪を通過点と話している３１歳が引退後にやりたいことは体育教師。「学びの喜びを教えたい」。学び続け、努力を続ける喜びの意味を、五輪という舞台で見事に証明した。　（兼田康次）

　▽結城匡啓コーチ「試合用のサングラスではないのに（そのままレースに）出ちゃうくらい集中していた。（１００メートルが）１０秒２台ならラップが出る感じはあったので、３６秒台という数字が見られると思っていた。

　３１歳で金メダル獲得は、冬季五輪の日本選手団で最年長。また、団体種目も含めて冬季五輪での３個のメダル獲得は、ジャンプの葛西紀明、船木和喜、原田雅彦、スピードスケートの清水宏保と並び最多タイとなる。

　男子は１９９８年長野大会の５００メートルで清水宏保（当時三協精機）が獲得。女子は２０１０年バンクーバー大会の団体追い抜き（小平、田畑真紀、穂積雅子）の銀メダルが最高。今大会の１５００メートルの高木美帆は女子個人初の銀メダルだった。

　信州大卒の小平が初めて。銅メダリストには９２年アルベールビル大会のショートトラック男子５０００メートルリレーの一員だった河合季信（筑波大）がいる。夏季五輪だと、柔道の谷本歩実（筑波大、０４年アテネ、０８年北京）らがいる。

＜小平奈緒（こだいら・なお）＞　１９８６（昭和６１）年５月２６日生まれの３１歳。長野県茅野市出身。１６５センチ、６０キロ。長野・伊那西高から信州大出。相沢病院所属。スピードスケート女子５００メートルの日本記録、１０００メートルの世界記録保持者。２０１０年バンクーバー冬季五輪の団体追い抜き銀メダル。今大会は１５００メートル６位、１０００メートル銀メダル。得意の５００メートルは昨季から国内外で無敗。今季、Ｗ杯通算優勝回数を日本女子最多の１９まで伸ばした。