小平堂々、無敵の女王 黄金の疾走

2018年2月19日

女子500メートルで金メダルを獲得した小平奈緒の滑走=潟沼義樹撮影

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 女子500メートルが行われ、1000メートル2位の小平奈緒(相沢病院)が36秒94の五輪新記録をマークし、日本女子スピードスケート初となる五輪金メダルを獲得した。

 スピードスケートの日本選手による同一大会複数メダルは、1998年長野五輪の男子500メートルで金、1000メートルで銅の清水宏保、今大会女子1500メートルで銀、1000メートルで銅の高木美帆(日体大助手)に続き3人目。

 郷亜里砂(イヨテツク)は37秒67で8位、神谷衣理那(高堂建設)は38秒255で13位だった。3連覇を狙った李相花(韓国)は37秒33で2位。

 <1>小平奈緒(相沢病院)36秒94=五輪新<2>李相花(韓国)37秒33<3>エルバノバ(チェコ)37秒34<4>ヘルツォーク(オーストリア)37秒51<5>ボウ(米国)37秒530<6>テルモルス(オランダ)37秒539<7>ゴリコワ(OAR)37秒62<8>郷亜里砂(イヨテツク)37秒67<13>神谷衣理那(高堂建設)38秒255

◆低地で驚異36秒台

 ストロークは最後まで伸びやかな弧を描いた。同走と僅差で迎えた最後の直線で小平はぐいぐいと隣のチェコ選手を引き離す。高速で駆け抜けたゴール。低地リンクでは異例の36秒台が大型スクリーンで躍った。

 「これで金メダルをとれなかったら仕方がない」。珍しく何度も両腕を広げ、世界女王の強さを誇示した。

 早々にピンチを迎えていた。号砲より先に体が動きかけ、「押し出されるように」スタート。踏み込めなかった一歩目で同走者に先を行かれ、闘争心に火が付いた。

 相手に競りかけるようにピッチを合わせ、リズムを取り戻す。「スケートが体の真下に入った」。その感覚を決して体から逃さなかった。

 前日には同門で男子の山中大地と一緒に滑り、スピード感を体に染み付かせている。50メートル以降はぐんぐんとスピードが上がり、隣とは同じピッチでも一歩の伸びが大きく違った。100メートル通過は自己記録相当の10秒26。あとは本能にゆだねるだけだった。

 「決して動かず、タイミングを待って、自分の角度で入った」と結城匡啓コーチがうなったカーブ。体を倒し、ショートトラックで鍛えた技術で滑らかに回った。

 バックストレートでも重心を低く、前に保った。オランダ留学で五輪金メダリストの後ろについて磨いた動き。積み重ねた技術を紡ぎ、36秒台の世界へと進んでいった。

 500メートルでは2シーズン、24戦にわたり、負けなしだった。常に追われながらも、「重圧はない」と言い続けた女王に目に涙が浮かぶ。「考えないようにしていたこともあった」と本音をこぼした。「全てが報われた」と万感の思いを込め、慣れ親しんだ表彰台の1番上に立った。(原田遼)

◆「長所融合」最高傑作

 小平が試行錯誤の末にたどり着いたのは「上はオランダ、下は韓国」のフォームだった。最強の国と、500メートルで五輪3連覇を目指した韓国の李相花らの長所を融合させた最高傑作を、鍛え抜いた肉体で表現してみせた。

 5年前、どん底を経験した。スピードの出る北米の高地リンクで2週続けて転んだ。日本新記録を狙い、「攻めたい」という姿勢が裏目に出た。会場の隅で涙を流す小平の肩を抱き寄せたのが李相花だった。「大丈夫?」と問われたが、ショックと屈辱で親友の気遣いを素直に受け止められない。「いいから」と手を払い、背を向けた。

 悔しさをばねに、ソチ五輪までは体を大きくし、李相花をしのぐ低い滑りを追求した。過酷な筋力トレーニングも笑顔でこなし、バーベルを支える肩に血がにじむまで鍛えた。ただ「ついたパワーをどう生かしていいか分からなかった」。

 開眼したのは、5位だった同五輪後のオランダ留学。上半身を起こす最強国の滑りを試した。腰が浮いて進みづらくなり、下半身だけ低くした。工夫を重ねて自身と世界の強みをミックスさせた滑りに至った。2016年秋から、500メートルでは一度も負けていない。

 3度目の五輪に照準を定め、体重は維持しながら体脂肪率を絞り込み、「筋量が今までで一番多い状態」(結城匡啓コーチ)に仕上げた。かつてはるかに格上だった隣国のライバルの優勝を、無敵の域に達した速さで阻んだ。(共同)

 <小平奈緒(こだいら・なお、相沢病院)> スピードスケート女子500メートルの日本記録、1000メートルの世界記録保持者。10年バンクーバー冬季五輪の団体追い抜き銀メダル。今大会は1500メートル6位、1000メートル銀メダル。得意の500メートルは昨季から国内外で無敗。今季、W杯通算優勝回数を日本女子最多の19まで伸ばした。長野・伊那西高、信州大出。17年、中日体育賞受賞。165センチ、60キロ。31歳。長野県茅野市出身。(共同)

中日新聞 東京新聞

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