演技を終えた羽生の表情は実に穏やかだった。昨年１１月に右足首を故障した後、外にも出られず、自分と向き合う時間が長かった。不安や重圧から解放され、気持ちがほどけた瞬間だった。彼にとって、五輪２連覇は本当に素晴らしい功績になった。

　フリーの４回転ジャンプはループを避け、サルコーとトーループの２種類に絞った。構成を下げて守りに入ったように見えるが、むしろ全体の点数が上がるようにした攻めの構成だった。ループを跳ぶことで、どこかにひずみが出る恐れもある。後半に足がやや動かない場面もありＳＰほどのすごみはなかったが、一つ一つの演技をきっちりこなした。ピークの合わせ方を含め、五輪を知っている演技だった。

　初出場で銀メダルの宇野も堂々としていた。フリーで逆転優勝を狙い、難度を落とすことなく攻めの姿勢を貫いた。冒頭の４回転ループで転倒した。いったんは立て直せても、後半にほころびが出るもの。それを最後まで高い集中力で演じ切った。気持ちが高揚したというＳＰの反省も生きた。団体ＳＰで１位になるなど、初出場と思えないほど大会を通じてセルフマネジメントができていた。

　五輪２連覇と、金銀メダルの独占。日本フィギュア男子は自分が想像していた以上の高いレベルをつくり上げている。４年後の北京五輪でどんな滑りを見せてくれるのか。今から楽しみで仕方ない。　（２０１０年バンクーバー五輪代表）