衝撃復活「羽生伝説」 自己ベスト迫る111.68点

2018年2月17日

男子SP、完璧な演技で観客を魅了した羽生結弦は充実の表情で歓声に応える=江陵で(田中久雄撮影)

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 30選手による男子ショートプログラム(SP)が江陵アイスアリーナで行われ、フィギュア男子で66年ぶりの2連覇を目指す昨季世界選手権王者の羽生結弦(23)=ANA=が111・68点でトップに立った。宇野昌磨(20)=トヨタ自動車、中京大=は104・17点で3位につけた。田中刑事(23)=倉敷芸術科学大大学院=は20位だった。元世界王者のハビエル・フェルナンデス(スペイン)が2位、世界選手権2年連続3位の金博洋(中国)が4位に入った。24位までが17日のフリーに進む。

 とても大けがをしていたとは思えない。ジャンプが決まるたびに会場が大歓声で揺れる。昨年11月に右足首を痛めた羽生の復帰戦は、何とすべてがパーフェクト。どうだと言わんばかりの表情で演技を終えると、抱きつくブライアン・オーサー・コーチに「カムバック!」。帰ってきたソチ五輪の王者が江陵アイスアリーナを完全に支配した。

 「とにかく満足という気持ちが一番。僕は元五輪王者。五輪を知っているのは強みだし、それプラス自分がその五輪でショート(SP)をノーミスにしていたから、そこにすがりたくなる気持ちもあった。また、皆さんの応援をパワーにして無事に滑ることができた」

 早朝の練習で何度も確認した冒頭の4回転サルコーを完璧に決めると、自らがピアノの旋律を奏でるようにSP曲ショパンの「バラード1番」を演じた。得点の111・68点は自己ベストで世界最高点の112・72点には届かなかったが、要素すべての出来栄え点で満点(3点)をつけたジャッジもいれば、演技構成点でも10点満点が連発。ブランクを感じさせない演技でファンとジャッジをうならせた。

 「練習できない間、調整法を書類だとか論文だとかで勉強した。そういうものを出せてよかった」。タダでは転んでいなかった。NHK杯直前の転倒負傷から2カ月、氷に乗れない羽生はデスクに向かっていた。リンクを降りれば通信課程の早大4年生。リハビリに役立つ論文や、記事を読みあさった。氷上練習はわずか1カ月間、今大会もジャンプの本数制限があることを明かした五輪王者は、新たな知識で高い壁を乗り越えた。

 鍋料理も食が細い王者を支えた。カナダ留学以降、悩みのタネが体重の減少だったが、サポートを受けている味の素の提案で鍋料理を開始。うま味成分のグルタミン酸を摂取することで胃腸を活性化できたという。最近はタマゴ雑炊がお気に入り。思わぬアクシデントには襲われたが、やるべきことに向き合って大舞台に帰ってきた。

 SP1位は前回ソチ五輪と同じ。ちなみに男子シングルが2部構成になった1992年のアルベールビル五輪以降、過去7大会で実に6人がSP1位から金メダルを獲得した。つまり、V率85・7%。昨秋「劇的に勝ちたい」と話していた王者の奇跡のストーリーは17日のフリーで完結する。 (兼田康次)

◆V率85.7% 必勝パターンだ

 男子の金メダル争いは、SPで100点を超えた4人に絞られたと言っていい。羽生はソチ五輪と同様の首位発進で「必勝パターン」に持ち込んだが、4・10点差で追う元世界王者のフェルナンデスは手ごわい。フリーは世界で初成功させた大技、4回転ループを跳ぶという攻めの構成にするか否か。ジャンプの選択が2連覇への鍵を握る。

 ループを回避したSPは昨年に世界歴代最高を更新した構成と同じサルコーとトーループの4回転で臨み、着氷を含む質の高さで加点を稼ぐ戦略が奏功した。右足首故障から復帰したばかり。フリーでも安定感のある2種類の4回転を計4度跳ぶ構成が賢明だろう。

 5種類の4回転を跳べる強敵チェンが脱落したことで、リスクを冒す必要がなくなったことも大きい。フェルナンデスはフリーでサルコーとトーループの2種類を計3本しか跳ばない。より高難度で3種類、計4本を組み込む宇野と金博洋は演技点で羽生に及ばない。

 国際スケート連盟(ISU)の天野真テクニカルスペシャリストは「羽生はジャンプの質で他選手を上回るので、4回転3、4本でも王者になれる」とみている。 (共同)

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