<クローズアップ平昌>技の高度化で高まる故障リスク

2018年2月10日

NHK杯の公式練習で、右足首を負傷した羽生結弦=昨年11月、大阪市中央体育館で

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 技の高度化が進むフィギュアスケートで、けがのリスクが高まっている。平昌五輪で連覇が期待される男子の羽生結弦(ANA)は、昨秋のNHK杯の試合前練習で新技の4回転ルッツに失敗して右足首を負傷。勝つためにジャンプなどの技の水準が上がる一方、その弊害も見逃せなくなってきた。 (佐藤航)

 男子は複数種類の4回転ジャンプを跳べないと、世界で戦えない時代になっている。しかし、日本スケート連盟の医事委員で日本選手団チームドクターの土屋明弘氏は、そんな潮流を懸念する。

 「ジャンプの回転を増やすのは、極端に言うと飛び降りる高さを1階から2階に上げるようなもの」と指摘。3回転から4回転に技のレベルを上げる際、「まず3回転半からという段階を踏むことができない。練習で同じ部位の負担を繰り返すことによる障害が多い」という。

 2010年バンクーバー五輪代表の小塚崇彦氏は「4回転をプログラムに2本入れたころからもともと弱かった股関節に響くようになった」と証言。「長年のトレーニングのひずみ」とも。技を習熟する過程の反復練習で過剰な負荷がかかるケースが目立つ。

 この傾向はジュニア以下の世代にも見られる。土屋氏によると、フィギュア界は代表クラスのトップ選手を除き、準備運動やクールダウンが選手本人に任されている場合が多い。「指導者の関心は氷上に向き、アップやダウンが不十分」と危険視する。

 体のケアを軽視し、正しい習慣が身に付く前に負担ばかりが蓄積されれば、やがて慢性的なけがにつながっていく。日本スケート連盟は一昨年、医療機関とともに連盟主催のブロック競技会に参加した選手にアンケートを実施。回答した321人の大半は18歳以下で、そのうち7割が「この1年で何らかのけががあった」と答えた。

 スポーツ界にとって技の高度化は自然な流れだが、先端への適応を急げば、有望選手の成長を妨げる恐れがある。女子ではジャンプを跳びやすくするために無理な減量を重ねる選手もいるが、栄養が不足すると女性ホルモンの分泌が減少。無月経が生じ、骨粗しょう症や疲労骨折の危険性が高まるという。

 バンクーバー、ソチ五輪代表の鈴木明子らを指導したトレーナーの亀掛川正範氏は「トップ選手はしっかり練習して運動量を確保しているから体重を維持できる。極端な食事制限で減量するのは間違いだ」と警鐘を鳴らしている。

<フィギュアスケートのジャンプ> 6種類ある。最高難度で半回転多いアクセルだけ前向きに踏み切る。ほかは全て後ろ向きで踏み切るが、エッジ(スケートの刃)の使い方などが違う。トーループ、サルコー、ループ、フリップ、ルッツの順に難しくなり、基礎点も高くなる。男子は2014年ソチ五輪後に4回転多種類化の時代に突入。16年4月に宇野昌磨が4回転フリップ、同年9月に羽生結弦が4回転ループを国際大会で史上初めて成功させた。

中日新聞 東京新聞

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