37歳・新田佳が8年ぶり頂点 先駆者、笑顔の新境地

2018年3月17日

スキー距離男子10キロクラシカル立位で優勝し笑顔の新田佳浩(中央)。左は2位のウクライナのグリゴリー・ボウチンスキー、右は3位のカナダのマーク・アレンズ=平昌(共同)

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 【平昌(ピョンチャン)=共同】2010年バンクーバー大会以来の金メダルに輝いたノルディックスキー距離男子立位の新田佳浩(よしひろ)選手(37)=日立ソリューションズ=にはたどり着いた一つの境地がある。「苦しさを楽しめる人が強い」。家族が見守る中、10キロクラシカルでゴールラインを滑り抜けると、力強くガッツポーズを繰り返した。「自分は幸せ者。苦しいことがあっても諦めちゃいけないと臨めた。それが一番良かった」と優しい笑顔を浮かべた。

 スタート直後の転倒をものともしなかった。「最後までスピードをキープする」と心掛け、トップとの差を徐々に詰めた。終盤は「4年間このためにやってきたんだ」と疲れた体にむちを打った。

 「なぜこの競技を続けているのか」。2年前、ある対談で問い掛けられた時、即答できなかった。3歳の時、祖父の運転する農機に巻き込まれて左前腕を失った。祖父のために金メダルを取ったら引退すると決意し、10年に夢をかなえた後は明確な目標を失った。

 見いだした答えが「楽しむ」ことだった。ゴール後に倒れ込んで立てなくなるほど厳しい競技。苦しい顔を見せがちだが「いろんな人が犠牲を払って支援してくれているのに、僕がつまらなそうにしては誰もついてこない」と気付いた。

 1998年長野大会は強化体制もゼロからのスタートだった。今では元五輪選手のコーチやノルディックスキー複合男子の渡部暁斗(あきと)選手(北野建設)を担当したワックスマンが付き、国の支援も受ける。

 この日のレースで、妻知紗子(ちさこ)さん(41)は「集大成だと思う。全力を出し切って」と願い応援した。1位が決まると、顔を覆ってむせび泣いた。「世界で一番応援していた。金メダルを取ると信じていた」と声を振り絞った。次男の健翔(けんと)君(4つ)が客席の前でゴールした父に向かって「1位なの?」と聞くと、新田選手は人さし指を立てて「1位だよ」と答え、握手した。長男大翔(だいと)君(7つ)も、「必勝」と書かれたはちまきを巻いて大きな日の丸を振り、声をからした。

 家族に見守られ、再び頂点に立った新田選手は言った。「うれしい。頑張ってきてよかった」−。

中日新聞 東京新聞

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