遠藤、東北に吉報届けたい 3度目の五輪で集大成

2018年2月10日

男子モーグル予選でエアを決める遠藤尚。13位で決勝進出は持ち越しとなった=9日(潟沼義樹撮影)

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 フリースタイルスキー男子モーグルの遠藤尚(忍建設)は3度目の五輪となる平昌五輪を集大成にして、今季限りで引退する。福島県猪苗代町で育ち、宮城県を拠点とする27歳。東日本大震災から復興途上にある東北に、明るいニュースを届ける。

 好調で臨んだ4年前のソチ五輪大会後に、華やかに引退するつもりだった。だが、まさかの15位。「辞めるのは簡単だった。でもやりたい気持ちが出た」。ソチで金メダルに輝いたカナダの選手が、今の遠藤とほぼ同じ当時26歳だったことが火をつけた。

 千葉県船橋市生まれ。3歳のとき、父が猪苗代町でペンション経営を始め、引っ越した。そこでモーグルを始め、高校卒業後は宮城県名取市を拠点とする建設関係の会社に入社。競技に専念させてもらってきた。

 震災の発生時は大会で北海道にいた。急いで戻り、炊き出しやがれき撤去を手伝った。あれから7年近く。東北は時間をかけて「復興」してきた。だが、遠藤の目にはまだ、そうは映らない。

 「ぼこぼこの道路は平らになったけど、沿岸部は塩の影響か木もあまり育たない」。風評被害で遠のいたとみられるペンションの客足も、なかなか戻らないという。「復興なんて言葉はないな、って思うことのほうが多い」

 2年前、競技中に右肩を骨折し、腱(けん)も断裂する不運に見舞われた。手術を受け、夜眠れないほどの痛みと戦った。長いリハビリを経て、昨季ようやく復活。だが弱音は吐かない。もっとつらい思いをした人がたくさんいたはずだから。

 「被災地のために」とは口にしない。「宮城に拠点を置かせてもらった以上、明るい知らせを持っていきたいという気持ち」。最後の五輪。みんなと喜びを分かち合いたい。9日の男子予選は13位。12日の予選2回目に決勝進出を懸ける。 (上條憲也)

中日新聞 東京新聞

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