<アリランの風>(3)潜水艦座礁 41人死亡の事件から21年

2018年2月5日

「江陵浸透事件」で座礁した北朝鮮の潜水艦。狭い船内には計器類やバルブが並ぶ=江陵で

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 「何者だ」と問われた男が右手で腹のあたりを探る。走ってその手を払うと、拳銃が落ちた。もう一人の警官に小銃を突きつけられ、男は「北朝鮮から来た」と答えた。

 一九九六年九月十八日、北朝鮮の潜水艦が江陵(カンヌン)の沖で座礁しているのが見つかった。派出所勤務だった警察官、崔羽永(チェウヨン)さん(48)はその日、住民からの通報を受けて駆けつけ、工作員を逮捕した。同じころ、乗船していた十一人の集団自殺遺体が山中で見つかり、さらに十四人の逃亡も分かる。掃討作戦で工作員十三人が死亡、韓国側も十七人が犠牲となった。

 氷上競技の会場がある江陵の海辺には、その潜水艦が展示され、事件を今に伝えている。内部には計器類が並び、人が擦れ違うこともできない狭さ。工作員が艦を捨てた際に内部に火を放ったため、今も焦げたにおいが漂う。

 江陵がある江原(カンウォン)道は軍事境界線で北朝鮮と接する。朝鮮戦争では戦場になった。その地で開催される五輪に、北朝鮮の選手が参加する。

 「いろいろな思いが交差します。最近までミサイル発射や核実験もあったし」。崔さんは警戒を口にしながら、「でも来ないよりは来るほうがいい。何かのいいきっかけにしてほしい」と平和の祭典に希望もみる。

 写真・田中久雄/文・境田未緒

中日新聞 東京新聞

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