クロアチア・モドリッチ、笑顔なきMVP
雨が降り続くピッチで、大会MVPに選出されたモドリッチは、ゆっくり表彰台へ向かった。金色のサッカーボールをかたどった高さ40センチほどの大きなトロフィーを手に記念撮影に応じたが、笑顔はなかった。
「すてきな賞をもらったことを誇りに思う。でも個人としてではなく、クロアチアとして、トロフィーが欲しかった」
172センチ、62キロの小さな体でピッチを縦横無尽に動き回り、史上初めてクロアチアを決勝へ導いた32歳の主将。あと一歩、及ばなかった。
「FKが与えられたとき驚いた。あれはファウルじゃない」
モドリッチが指摘したのは前半18分、主審がフランスにFKを与えた場面。このFKからオウンゴールで先制を許した。10分後、モドリッチのFKからペリシッチが同点ゴール。しかし同37分、主審はVARによるPKをフランスに与えた。
「僕たちはいいプレーをしたし、最高のサッカーをした。でも主審はPKを与えた。あれで殺された。もう立て直すことは難しかった」
少年時代、クロアチア紛争下で難民として7年間もホテル暮らしを強いられた。その最中、主要クラブの入団テストを受けたが、体が小さいことが理由で不合格。しかしへこたれなかった。練習に練習を重ね、母国のディナモ・ザグレブでプロになり、トットナム(イングランド)を経て、2012年からレアル・マドリード(スペイン)でプレーする。
欧州CL連覇など数々のタイトルを手にしたが、代表では無冠。W杯は06年大会の日本戦で途中出場し、デビュー以来、3大会12戦目だった。悲願の初タイトルは逃したが「クロアチアにとって、素晴らしい大会だった。僕たちはこの道を進むべきだ」と強調した。犠牲をいとわない連帯と不屈のサッカー。小国クロアチアの未来が、モドリッチにははっきりと見えていた。 (原田公樹)