7月4日

挑んだ43日 知将の涙 西野監督、日本らしさ貫く

ベルギーに逆転負けを喫し、肩を落とす西野監督(中央)=2日、ロストフナドヌーで(共同)

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 いつもはクールな人の目に涙が浮かんだ。西野朗監督(63)が「善戦だけではなく、勝ち切らなければならない」と強い決意で臨んだベルギー戦の幕切れは残酷だった。2点差を追い付かれ、延長突入かと思われた後半ロスタイム、最後の最後で「ああいうスーパーカウンターを受けるとは」。怒濤(どとう)のような速攻でゴールを奪われ、つかみかけた日本初のワールドカップ(W杯)八強が手からこぼれ落ちた。

 0−0の前半から一転、真っ向勝負の打ち合いが始まった。後半早々に先制したのは日本だ。原口元気選手、乾貴士選手が相次いでネットを揺らす。2−0。思わず監督も拳を握った。「本気になったベルギーとフルパワーで戦う」。追い詰めた相手から真の力を引き出し、その上で勝つ。理想の展開に持ち込んだが、欧州の実力国が秘める反発力は想像を超えた。

 ハリルホジッチ前監督の後を継いで三カ月足らず。選手の声に耳を傾け、個性を生かす「日本らしいサッカー」にこだわった。

 埼玉県立浦和西高から早大へ。日立製作所(現J1柏)での現役時代は天才肌の中盤で将来を嘱望された。しかし、アマチュアの企業スポーツは個性より目先の成績が最優先され、伸び悩んでスパイクを脱いだ。だからこそ個々の長所を尊重する。日本人が持つ組織力と技術、走力と連動性などの強みを前面に出し、パスをつないで果敢に攻め込むスタイルを信じた。

 乾選手や柴崎岳(がく)選手は特長を最大限に発揮し、小気味よいリズムを生んだ。コロンビアを破り、セネガルには二度追い付いた。ポーランド戦は消極策で後味の悪さを残したが、その分を取り戻すかのように正々堂々とした戦いを見せ、惜しくも散った。

 実際にチームを指揮したのは国内合宿が始まった五月二十一日からだった。「劇的な変化を」と短期間で再建して挑んだひのき舞台。「結果は残念の一言。2−0から敗れるのは選手に非はなく、自分を問いたい」と責任を背負った監督の、濃密すぎる四十三日が終わった。 (ロストフナドヌー・共同)

中日新聞 東京新聞

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