6月21日

コロンビア 敗戦の憂い 「脅迫」投稿に批判相次ぐ

日本戦でハンドの反則を犯すコロンビアのC・サンチェス選手(左)=サランスクで(タス・共同)

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 サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会で、日本が格上のコロンビアに勝った。アジア勢として初めてW杯で南米勢を破る快挙だ。コロンビアは国民のサッカー愛が熱いことで知られる。過去のW杯では、オウンゴールを記録し、チームの不振の「戦犯」と目された選手が帰国後に射殺された事件もあった。今回の敗戦の衝撃は、いかばかりか−。

 「コロンビアは日本戦で自ら腹を切った」

 中南米で影響力を持つ新聞エルムンド(電子版)は「ハラキリ」という見出しを使い、敗戦は自滅が原因だったという記事を掲載。「コロンビアは初戦でお祭りを始められなかった。最悪の事態だ」と衝撃を伝えた。

 コロンビアは前半開始早々、C・サンチェス選手がハンドの反則で一発退場。PKで日本に先制を許し、一人少ない戦いを招いた。

 一九九四年のW杯米国大会では、米国戦でオウンゴールをしたエスコバル選手が帰国後に射殺される「エスコバルの悲劇」が起きている。

 コロンビアの電子メディア「プルソ」によると、日本戦後、会員制交流サイト(SNS)のツイッターに何者かがサンチェス選手とエスコバル選手の写真を並べて投稿。コロンビア国内では「脅迫行為だ」「絶対に許せない」と批判の声が相次いだ。

 もしや、サンチェス選手の身に危険が及ぶことはないのか。

 コロンビア出身で名古屋市中川区に住む通訳業鴨居イルマルシアさん(56)に聞くと「同じことは起きない」と断言した。

1994年6月22日の米国戦でオウンゴールのミスを犯し、グラウンドに倒れ込むエスコバル選手=ロイター・共同

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 「エスコバルの悲劇はサッカー賭博で損をしたマフィアの仕業といわれている。当時と比べて治安は安定しているし、コロンビア人は悲劇から学んだ」と語る。「私もコロンビアの勝利を信じていたから、まさかの敗戦に悲しんでいる。だが、まだ二試合ある」と前を向く。

 コロンビアでは七〇年代以降、麻薬密売団によるテロが横行。政権と左翼ゲリラによる内戦が続いた。コロンビア政治が専門の二村久則名古屋大名誉教授(70)は「内戦も終結し、エスコバルの悲劇があった九〇年代と比べ、マフィアは弱体化した」と指摘する。

 今月十七日に当選を決めたばかりのドゥケ次期大統領が、左翼側との和平合意見直しを宣言するなどの波乱要因に言及しながらも、「社会が成熟し、暴力は許さないという機運も高まった。サッカーに熱狂する国民性は変わらないが、暴力を心配する必要はないのでは」と話した。

<エスコバルの悲劇> 1994年のW杯米国大会1次リーグの米国戦で、コロンビアのアンドレス・エスコバル選手(DF)がオウンゴールを記録。コロンビアは1−2で敗れ、優勝候補とされながら決勝トーナメントに進めなかった。エスコバル選手は帰国後、メデジン市内の飲食店で数人の男に囲まれ、射殺された。犯人は銃撃の際「オウンゴールありがとうよ」との捨てぜりふを残したとされる。犯行は、サッカー賭博で損害を受けた麻薬組織によるものとの見方が強い。

中日新聞 東京新聞

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