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能登半島地震特集能登半島地震 体験ルポ 被災片付け難航
20代本紙記者も『つらい』能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市門前町。被災家屋の後片付けは壊れた家具や家電製品の撤去など力仕事が中心で、割れたガラスでけがをする心配もある。作業を体験すると、二十代の記者にとっても想像以上の重労働だった。同町の住民は、ほぼ半数が六十五歳以上の高齢者。重労働の上、思い出も詰まった家財道具を捨てることに、どれほどつらい思いをしているだろうか…。 (報道部・白名正和) 大半が高齢者家財ごみ 心に痛みどの家にもありそうな高さ約一・五メートルの木製食器棚。引き出しを外し、中に入っていた物を出しても、担ぐと重さでふらついた。「無理しなくていいから」。塚征四郎さん(67)の言葉を背に歩く。ごみ集積場までの五十メートルが耐えられず、すぐ下ろした。記者は二十七歳。小学校から大学まで運動部に所属。体力を生かそうとボランティアを申し込み、被害の大きかった門前町舘の塚さん方で五日に片付けを手伝った。 作業をしたのは塚さん、京都から駆けつけたいとこの隆久さん(67)、ボランティアの小石隆広さん(24)。築約六十年で、一階に五部屋ある木造一部二階建ての住宅。塚さんと隆久さんがあらかた片付けた玄関と寝室以外は、家財道具が散乱していた。 割れたガラス、散らばった包丁、壁からむき出しのくぎ。あらゆる物が凶器と化している。布製作業用手袋をしていても、不用意に食器をつかむと指先に刺激が走る。散らばった新聞紙をわしづかみにすると下から剣山が出てきた。視力が悪い人はけがをしかねない。靴底には画びょうが刺さっていた。 倒れて重なったたんす、崩れた柱、壊れた家電製品。どれも重い。塚さんは「七十や八十歳の人には無理やろう」。高齢者には難しそうだ。 使い古した食器、着慣れた服。すべてがほこりをかぶり、使い物にならない。思い出を捨てる作業は耐え難いに違いない。体のつらさだけでなく、心も痛むはずだ。 作業は昼休みを挟み午後四時すぎまで。男四人でも不用品を運び出すことしかできなかった。崩れた壁や割れた窓にビニールシートを張ったり、代わりの家財道具を運び入れたりと、人が住めるようにするにはまだ手間がかかる。しかも二階は手つかずのままだ。「当面は泊まり込み、もう数日かけて直すよ」と隆久さん。復興への厳しさを実感した。
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