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能登半島地震特集

あの日から2年−3・25能登半島地震(5)

昨年7月に完成した鐘楼を眺める吉岡さん。左奥は全壊した本堂=石川県輪島市門前町の専徳寺で

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本堂 全壊のまま

鐘楼は復元 支援限界

 石川県輪島市門前町和田の専徳寺(せんとくじ)の境内には年季が入った山門や石灯籠(どうろう)が並ぶ。石垣の上に構える鐘楼(しょうろう)がとりわけ目を引く。真新しいケヤキの木肌が白く輝いている。その中、わずかに黒みがかった鐘が下がっている。

 二年前の春、能登半島地震で本堂や塔が大きな被害を受けた。鐘楼も全壊した。「とても再建費用を頼めない」と、住職の吉岡俊雄さん(72)は途方に暮れた。門徒の八割は年金暮らしの高齢者。その人たちも被災した。生活を守るのに精いっぱいだろうと思った。

 それでも鐘楼だけは何とかしたいと思った。鐘は一六九四年に造られ、市文化財になっている。音、姿が門徒や近所の人に愛されていたからだった。

 話を聞きつけた人々から善意が集まり始めた。額は約一千万円ほどになった。鐘楼の復元は吉岡さんも予想していなかった早さでかなった。

 昨年八月、真新しい鐘楼におさまった鐘を門徒が突き初めした。地域の宝物が澄んだ低音を響かせた。吉岡さんが想像していたような笑顔を門徒たちは浮かべた。

   ◇  ◇

 しかし、地震で全壊した本堂は当時のまま。土台部分の損傷がひどく、建物全体が傾いている。「手を付けるなら、建て直ししかない」と再建費用を見積もってもらった。約一億三千万円と出た。半分の五十坪にしても約八千万円だった。

 寺の財政がこれからどうなるか分からない。若い人の信仰心は高齢者より薄い。「新しい本堂は必要ないのかもしれない」と、費用をかけて再建することをためらう。

 門徒の暮らしも苦しいままだ。多くの人が家を直すのに貯金を切り崩した。ふところはもちろん、「みんな心にも余裕がなくなった」と感じている。

 最近、参拝した人から隣近所の話を聞かなくなった。住民の付き合いが薄くなったと思う。「田舎では困難があると人々のつながりが強くなると思うでしょう。でも、実際は逆なんです」と嘆く。

 (報道部・山本真士)

 

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