アスリートがアーティストに勝利 大接戦のフィギュア女子

2018年2月23日

 演技する宮原知子=江陵(共同)

 演技する宮原知子=江陵(共同)

 フィギュアスケート女子は五輪史上最高レベルの戦いだった。氷上の「アスリート」ザギトワと、「アーティスト」ともいうべきメドベージェワ。ロシア勢による金メダル争いは、2人のフリーがともに156・65点で同点という大接戦。ショートプログラム(SP)首位のザギトワが、1・31点の僅差のリードを守り切った。3位までが230点を超えた表彰台。宮原知子は4位で届かなかったが、SP、フリー、総合とも自己ベストを更新する大健闘だった。

 ▽得点マシン

 ザギトワは高い技術に、15歳とは思えない戦略で得点の上積みを図った。7度のジャンプは、すべて基礎点が1・1倍になる後半に組み込む大胆さ。女子では他の選手がまねの出来ないルッツとループの3回転の連続ジャンプを含め、きれいなジャンプをよどみなく続けた。

 技術点は81・62点で、メドベージェワを2・44点、上回った。7度のジャンプの基礎点が上積みされたうえに、それぞれに出来栄え点も付加された。

 長丁場のフリー演技で、前半をステップやスピンだけで流す構成には批判もある。「プログラムが偏っている」「採点の仕組みを利用した得点マシン」「フィギュアスケートの質を変えるもの」といった見方だ。

 しかし得点を争うスポーツである以上、ルールの範囲内で最大限の結果を狙うのは理にかなう。疲労がたまる後半に、難度の高い技を集中してこなせる驚異的なスタミナを称賛すべきだろう。

 ▽演技力でカバー

 メドベージェワは技術点ではザギトワに及ばなかった分、高い表現力で補った。

 スケート技術、要素のつなぎ、音楽の解釈など5項目(10点満点)の得点がいずれも9点台半ばから後半の高評価。演技点はSPでは0.8倍の係数が掛けられ40点満点。フリーでは逆に1.6倍された80点満点になる。

 メドベージェワは77・47点で、演技点では逆にザギトワより2・44点多く稼いだ。

 メドベージェワにすれば、結果的にはSPのわずか1・31点差が響いたことになる。たった1度のジャンプの評価だけで順位が上下する差である。

 2人のフリー後半での3回転の連続ジャンプを見てみよう。高難度を組み合わせたザギトワは13・91点を得たのに対し、もともとの基礎点が低いメドベージェワは11・17点だった。

 世界選手権2連覇中のメドベージェワは、急成長した新星ザギトワのアスリート的要素に屈した。

 ▽胸を張れ! 宮原

 宮原はメダルにも値するほぼ完璧な演技だった。ジャンプの回転不足の欠点を見事に修正して、すべてで加点を得た。宮原の222・38点を前回ソチ五輪の上位と比べると、キム・ヨナ(韓国)の銀メダルスコアをも上回る。

 上位選手であれば誰もが難しい3回転の連続ジャンプをきちんと跳び、スピンやステップも高いレベルで演じ切る。フィギュア女子の世界の進化に、懸命についていく気迫が宮原にはあった。

 3位のオズモンド(カナダ)とは技術点ではそれほどの差はなかった。より大きくリードを許したのはSP、フリーとも演技点だ。

 宮原の基本的な滑りや全体のパフォーマンスはきれいで、表現力がそれほど劣っているようには見えない。151センチとひときわ小柄な宮原の演技がアピール不足に映るのだろうか。採点競技ならではの審判の主観が入る部分だけに、悔しい結果ではある。

 それでも宮原はけなげだった。「自分のやれることは、すべて出来た。(五輪は)想像以上の夢の舞台。ここにいることができて光栄でした」。無念さを胸にしまい込み、生真面目にインタビューに応じていた。

 日本のフィギュア女子の歴史をきちんとつないだと評価したい。堂々と胸を張っていい。(共同通信=荻田則夫)

(共同)

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