7月10日

『ネイマール劇場』って何だ!? ブラジル国内の見方は…

メキシコ戦の前半、倒されて痛がるブラジルのネイマール=ロイター・共同

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 無念の準々決勝敗退となってからも、ブラジル国内でくすぶりつづけているテーマがある。ネイマールの「転倒」問題だ。

 この大会中、ネイマールがいつも以上にオーバーに倒れてファウルをアピールしていると、批判され続けた。倒れた後の痛がり方は「演技」と揶揄され、倒れている時間まで計測されるなど、ブラジル国内外で大きな話題となった。

 国外のメディアではおそらく批判的な論調の方が多いのだろうが、ブラジル人の見解は実にさまざまだ。サッカー関係者と報道の立場では見方が違うし、同じメディアの中でも、現場でネイマールを日々取材している記者やレポーターと、ブラジル国内でコメントしている人でも異なる。

 もともとサントスに所属していた時代から、ブラジルメディアの中でも「カーイ、カーイ(ポルトガル語で『倒れる、倒れる』の意味)」という表現が生まれたほど、ネイマールの転倒は議論の的だった。しかし、ブラジル代表として国際舞台でプレーするようになったころ、ヨーロッパの報道陣から批判が起きると、逆にブラジルのメディアは猛反発した。

 「あれはネイマール流の受け身で、必要不可欠だ」と。

 彼の瞬発力やトップスピード、ドリブルやフェイントの技術に対して、相手はファウルや、ファウル寸前のプレーでしか、止めようがない。今回のワールドカップ(W杯)でも、それには変わりなく、あれをすべてまともに受けていたら、いつでも大ケガにつながる。

 故障明けの状態では、なおさらのことだ。右足小指を骨折し、手術を受けたのが3月3日。W杯には間に合ったものの、3カ月間も実戦ではプレーしておらず、当然ながら復帰後もあちこちの筋肉などに問題が起こりやすくなる。5月21日に大会事前合宿がスタートした時点では、足にプロテクターをつけて練習していたネイマールは、日が経つに連れて、「まだ少し、いくつか動きをするのに恐怖がある」と言いながらも、試合勘を取り戻すべく、ミニゲームなどにも100%で取り組んだ。誰よりも笑顔でチームを盛り上げるようになったが、その一方で、骨折した部分ではない箇所に急に強い痛みが出て、ピッチを離れたこともあった。

 大会に入ってから、痛めていた箇所は「通常の範囲」という情報が試合後も出ていたが、理学療法に入念に時間が費やされた。そういうすべてを間近で取材している現場の報道陣の間では、倒された時に本人が感じる痛みも普段以上だったのでは、という見方が出ていた。

 サッカー関係者の間では「倒される時は倒れないとケガをする」という意見が多い。批判されたからと言って、無理して倒れないようにしたら、その試合で負傷離脱になってしまう可能性も大いにあるのだ。

 ネイマール自身のメンタル面に言及する向きもある。代表に合流した時点で、フィジカルコーチが賞賛するほどの回復とフィジカルコンディションを見せていたが、本人は絶好調の時のようにはやれてないと感じていたのかもしれない。そういう自分の中での悔しさが、こうした行動につながっているのかもしれないという意見だが、さすがに彼の心の中までは、誰も知ることはできない。

 いずれにせよ、「ネイマールはすぐに倒れる」という評判が、審判のジャッジに微妙に影響した側面は見逃せない。本来はファウルのはずであっても、ファウルを取ってもらいにくくなるという損な状況につながっていた。また、ブラジルが勝ち上がっていれば、対戦する可能性のあったフランスやイングランドなどは、この評判を大いに利用したとも言える。W杯は国を挙げての総力戦。メディアが「シミュレーションだ」「演技過剰だ」という、ネイマールの負のイメージを煽ることで、いざ対戦する時に、自国に有利に働くことを狙った戦略だ。

 ただ、チームがうまく機能していれば、状況は変わっていたかもしれない。敵のマークがネイマールに集中し、ファウルを受ける数も多いのは事実だが、これまでもチームが好循環の時は相手の意識も分散し、ネイマールもシュートはもちろん、アシストや、相手を引き付けて味方をフリーにするなど、のびのびとプレーできていた。際どいファウルを受ける数も減っていたはずで、ここまでの「転倒」騒ぎは起きなかったかもしれない。

 ネイマール自身は、メキシコ戦終了後の記者会見で、「すぐに倒れる」という評判をどう思っているかと聞かれ、こう答えていた。「僕は批判について、あまり気にかけないんだ。時には賞賛さえ気にかけない。ただサッカーをプレーし、チームを手助けすることだ。僕は勝つために来た。それ以外にはない」。自己弁護も反論もしない。プレーで、そしてチームの勝利で答えを出す。そんな気持ちを表した言葉だと思うが、それは叶わずに終わった。

 ネイマールがあれほど批判されるのはやはり不当だと感じる半面、擁護するだけでは何も解決しない。W杯招集メンバー発表会見の時、ケガ明けのネイマールへの不安を聞かれたチッチ監督は「ネイマールがいることで、チームは良くなる。ただ、ネイマールが良いプレーをするためには、チームが良くなければならない」と答えていた。選手はチームのために、そして、チームと共にプレーするのだ。これも4年後に向けた課題の1つなのかもしれない。(スポーツライター・藤原清美)

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