7月6日

<光と影 西野Jの挑戦>(中)見えない目指すスタイル

 日本代表が帰国した5日、西野朗監督らと成田市内で会見した日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、満足そうな表情を浮かべていた。「1パーセントでも勝つ確率を上げたいと大会に入った。西野さんも、小さな奇跡を起こしたいと言っていた。その中での16強入り。誇りに思う」。大会2カ月前の急造チームを「素晴らしいサッカーを披露してくれた」と称賛した。

 「苦難の船出」は4月9日、ハリルホジッチ前監督の電撃解任発表からだった。会長が口にした解任の大きな理由は「選手とのコミュニケーションが多少薄れた」というもの。W杯目前の準備段階にある前監督の解任理由としては説得力に欠け、無計画だと非難の声も上がった。

 日本協会は今大会までの4年間、過去の反省を踏まえ、綿密な計画を立ててきた。アジア予選の戦い方、予選突破後の強化方針などを「4クール」に分けた。過去の八百長疑惑で解任を余儀なくされたアギーレ監督からハリルホジッチ監督に代わっても、方針は不変。明確なビジョンがなければ強化は図れないとの理由からだ。

 振り返れば、2010年南アフリカ大会は開幕前の強化試合で4連敗。当時の岡田監督は急きょ守備的な戦術に変更し、W杯は16強入りの成績を収めた。一方で、14年ブラジル大会は攻撃的サッカーを志向するザッケローニ監督のもと、選手たちは「自分たちのサッカー」にこだわり惨敗。指針が左右に大きく振れてきた反省がある。

 「ばくち」とも思える突然の監督交代で挑んだ今大会。「日本らしいサッカー」を掲げた西野監督は、前監督が追い求めた縦に速い攻撃でゴールに迫る戦術や球際の強さをうまく継承しながら、優れたマネジメント力でチームを16強に導いた。ただ、協会による突然の監督交代が混乱を広げたのも事実。3大会連続で主将を務めた長谷部が、敗れたベルギー戦から一夜明けて口にした言葉は重い。「これだけ長い間、日本代表でプレーさせてもらい、日本が最終的に目指すサッカーを確信できていない部分がある」

 日本は20年東京五輪も控え、若手育成を踏まえた強化が急務にある。西野監督は「結果に対しては成功とは言えない。次につなげていけるかというところに日本サッカー界の意義がある。4年後に今大会の挑戦が成功と言えるようにしてほしい」。結果と裏腹に、色濃く落ちる影。目指すサッカー像と次の4年間に向けた具体策を明快に示せなければ、W杯でのベスト8進出はまだまだ遠いのかもしれない。 (対比地貴浩)

中日新聞 東京新聞

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