6月30日

<目撃者>西野監督の大博打 苦渋の無気力負けを選択

ポーランドに敗戦も1次リーグ突破を決め、岡崎(中央右)に握手を求める西野監督=ボルゴグラードで(共同)

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 【カザン(ロシア)本紙取材団】日本が2大会ぶり3度目の決勝トーナメント進出を決めた。28日のH組最終戦で、日本はポーランドに0−1で敗れたが、同じ勝ち点4のセネガルと得失点差などでも並び、警告などの数を点数化して順位付けする「フェアプレーポイント」で上位となって同組2位に滑り込んだ。決勝T進出のため敗戦覚悟の試合運びは、世界規模で物議を醸した。日本は初のベスト8を懸け、7月2日(日本時間3日)にロストフナドヌーでG組1位のベルギーと対戦する。

◆結果正解なら勝負に勝った

 人知を超えた采配だった。西野朗監督が選択したのは「他力」。試合終了まで残り約10分。後方でパスを回し続けた。攻める気はなかった。リードするポーランドもボールを追わない。「究極の選択だったかもしれない」。“無気力試合”に観客は大音量のブーイング。そして、結末を見届けず、列をなして続々と会場を出た。

 奇妙な光景の始点は同時刻に行われたH組のもう一試合。コロンビアが後半29分にセネガルから先制点を奪った瞬間から。日本とセネガルは勝ち点、得失点差、総得点で並び、「フェアプレーポイント」の計算までもつれた。日本は警告が2枚少なく、僅差でH組2位。西野監督の前に突如現れた選択肢は2つ。

 (1)1点奪って1−1にして自力突破を狙う

 (2)警告を受けずに守り切った上で、セネガルが無得点で終わるのを待つ

 「自分の中にないプランを迫られた中で選択したのは他力。不本意だが、W杯にはそういう戦いがあって、その選択が正解と出ればそれも勝負に勝ったということ。そういうサッカーがあってもいいのかと初めて感じた」。試合後の会見は終始、渋面。信念を曲げてまで1次リーグ突破にこだわった。

◆岡崎負傷交代 猛暑で疲弊…

 攻めたい−。だが、先発を6人入れ替え、前線には守備職人の岡崎、武藤、右MFには本職がサイドバックの酒井高を置いた。前線からの守備を意識した布陣。0−0で推移しながら勝負どころで本田、香川、乾らを投入する「プラン」だった。事実、後半14分に先制点を許す前からウオームアップゾーンには本田、香川、原口らが待機した。

 しかし、36度の気温にチームは疲弊。計画も崩れた。てんびんにかけた時、得点のリターンよりも、失点で可能性が消えるリスクの方が高いと判断した。リスクを減らすため「警告をもらうな」という“伝令役”の主将・長谷部を最後のカードとして切った。確率論としては正しい。ただ、そこにはセネガルが1点取らないという大前提がある。強気なのか弱気なのか分からない。まさにファンタジーだが、大博打に勝った。

 西野監督は「選手たちにブーイングを浴びせられながらプレーさせたのも、自分の信条ではない」と言った。他力と“無気力試合”への批判は国内外から沸き起こっている。だが、それを覆す機会はある。日本史上初の8強進出を懸けたベルギー戦だ。「今日の分まで強気にゲームを迎えたい」。一発勝負のトーナメントで歴史を塗り替えた時、勝った者は強い−と胸を張って言えるだろう。 (占部哲也)

中スポ 東京中日スポーツ

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