6月14日

チッチ監督の下で一丸 6度目の頂点に挑むセレソン

 母国開催の前回大会でドイツに1−7で大敗し、失意のどん底を味わったブラジルが4年後の今、再び世界が認める優勝候補としてワールドカップに挑もうとしている。復権したサッカー大国を卓越した手腕で導いているのがチッチ監督だ。

 試合中の采配はもちろんのこと、特筆すべきなのがその人心掌握術。一時は控えに回されていたMFウイリアンでさえ、「チッチは単に監督であるだけではない、もっと大きな存在だ。父のようでもあるし、とても知的な人。チームをとても良くコントロールできるんだ」と指揮官への絶大な信頼感を口にするほどだ。

 彼が採用した方針の中でも、話題となったのが「キャプテン持ち回り制」。試合ごとに違う選手が指名され、これまで16人が主将の大役を務めてきた。代表経験豊富な選手や中堅はもちろん、大半の試合で控えに回ってきた選手も、スタメン出場した試合でキャプテンマークを巻いた。

 代表の末っ子であるFWガブリエルジェズスも21歳で、ブラジル代表史上最年少となるキャプテンを務めた。前任のドゥンガ監督時代にはリーダーの役割が負担になり過ぎ、一度はキャプテンマーク返上を宣言したFWネイマールも再び重責を担う意欲を取り戻した。

 選手は誰もが、主将に選ばれた誇りと自分自身の重要性を感じられる。チームにとっても、さまざまなタイプのリーダーシップを得ることができる。さらに、チッチ監督は「ここブラジルでは、キャプテンとは尊重される以上に、チームの状況が良くない時に、批判が集中する存在。祝う時は、みんなで祝うじゃないか。だったら、その責任もプレッシャーも分け合おう」と語る。喜びも苦難もチーム全体で共有することを意図しているのだ。

 試合前日、チッチ監督はどの選手についても、キャプテンに選んだ理由、つまり、その選手の長所を報道陣に丁寧に説明してきた。それが選手たちには大好評だ。「監督はピッチに11人のリーダーを求めているんだ」(MFカゼミロ)「試合ごとにキャプテンが違えば、リーダーも成熟するし、チームが困難に陥った時には、多くの選手がリーダーシップを発揮できるようになる」(DFミランダ)。選手の誰もが、その効果を語る。

 2014年大会の後は、ブラジル国民でさえ、自国のサッカーを信用しなくなっていた。チッチ監督の就任前、南米予選では2勝3分け1敗で予選突破圏外の6位に沈み、15年、16年の南米選手権でも優勝には手が届かなかった。

 それがチッチ監督の就任後は20試合16勝3分1敗。44得点でわずか5失点と驚異的な数字を残している。史上最多6度目の頂点へ。チームが取り戻した結束と誇りが、直前合宿の空気に満ちている。(スポーツライター・藤原清美)

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