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課題の現場から(5)防災 身近な対策 周知重要

2019年2月2日

住宅街を歩き、倒壊の危険があるブロック塀の点検をする早川さん=名古屋市港区で

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 名古屋市港区の住宅街を歩き始めて数分。民家のブロック塀に縦横にひびが入っているのが見つかった。「これは危ない」。県内で防災啓発活動を展開するボランティア組織「あいち防災リーダー会」の早川澄男さん(74)がすぐさま危険性を伝えると、住民の女性は「人にけがをさせたらえらいことになる。撤去しなきゃあかんね」と応じた。

 会がこうしたブロック塀の点検活動に力を入れるようになったきっかけは、昨年六月に起きた大阪府北部地震。小学校のブロック塀が倒れ、下敷きになった女児が死亡したことから、メンバーは身近にあるブロック塀を見て回り、危険な塀については住民に周知して撤去を促している。

 取り組みの結果、早川さんの自宅周辺では小学校の通学路沿いなど七カ所の民家・企業の危険なブロック塀が撤去され、軽量な金属製の柵などに取り換えられた。それでも早川さんは「危険な塀はまだ残っているが、危ないと知らない住民も多い」と指摘する。

 大阪府北部地震を受け、県は、緊急点検で安全性に問題が見つかった県立学校のブロック塀を二〇一九年度末までにすべて撤去する方針を立て、一部では既に代わりのフェンスの設置を進めている。

 民間建築物についても、各市町村が定めた重点地区で点検し、安全性に問題がある壁三千二百七十五カ所を見つけた。ただ、点検したブロック塀は県内全体の建築物のごくわずかで、県の担当者も「氷山の一角」と認める。早川さんは「地震の記憶が薄らぎ、ブロック塀への関心も低下する前に一軒でも多く回って危険を周知したい」と活動を急ぐ。「東日本大震災の直後は関心が高かったが、時間がたてばたつほど話を聞いてもらえにくくなった。同じ状況にならなければいいが」と懸念する。

 住宅の耐震化では、県は国や市町村とともに木造家屋に最大百万円の改修費用を補助する制度を設けている。だが、補助を受け耐震工事した住宅の戸数は東日本大震災直後だった一二年度の千四百戸から一七年度は八百戸ほどに減少。県内には耐震強度不足の民間建築物が現在も四十万戸ほどあるとみられ、県の担当者は「補助制度を周知し、改修する住宅を増やしていけるかが課題になっている」と話す。

 「巨大地震に備えた最も被害を減らせる方法は、耐震化などの身近な対策を進めることだ」と説く早川さんは「個々の家庭への周知を進めるには、地域を回る防災ボランティアと行政が連携し、継続的に周知活動をしていくことが重要だ」と訴える。

 (中尾吟)

 =終わり

 <県勢メモ> 県が2014年に公表した南海トラフ巨大地震の被害想定では、最大震度7の揺れが県内を襲い、建物倒壊による死者は1万4000人に上るとされ、津波・浸水の死者(1万3000人)よりも多い。県は犠牲者を減らすため20年度の住宅耐震化率95%を目指すが、県などの補助を受けて耐震改修工事を実施した住宅戸数はここ数年、低水準で推移している。

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