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課題の現場から(3)人口減・地域格差 祭り栄えても村は…

2019年1月31日

花祭り会場で「休止は筆舌に尽くしがたい寂しさがある」と話す尾林さん。手にしているのは祭りで使うわらを束ねた「たわし」=東栄町中設楽で

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 「来年三月で布川の花祭りを休止にしようと思う」。昨年十一月、山あいの東栄町布川地区にある集会所。集まった住民十五人に、祭りをつかさどる世襲制の花太夫(はなだゆう)、布川花祭保存会長の尾林良隆さん(81)が口を開いた。花太夫になって三十六年で集落は半減以下の十四戸に。高齢化も進み、祭りを支える十人中六人が八十歳以上だ。七百年の歴史を誇る国重要無形民俗文化財の難局に、反対意見は出なかった。

 二〇〇八年に県内の地域別で唯一、人口減に転じた東三河。特に山間部の過疎化は深刻で、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が発表した四五年の将来推計人口によると、豊根村と設楽、東栄町の人口は一五年から六割減に。新城市も四割減が見込まれる。

 県は定住人口を増やす足掛かりにと、観光振興による交流人口増に取り組む。奥三河三町村に伝わる花祭りも観光資源の一つ。県は花祭り情報を集約したホームページを設け、各花祭り会場を結ぶ周遊バスを運行してきた。花祭りをきっかけに移住したり、若い移住者が移住者を呼んだりする例も現れ始めている。

 しかし、奥三河から聞こえるのは「政策の効果が出るまでにまちがなくなる」との声。尾林さんは「外で働く人にもいつかは帰ってきてほしいが、それも難しい。祭り栄えて村滅びる。過疎の問題は祭りだけの問題ではない」と唇をかむ。

 県内の経済や人口の盛衰を表す言葉に「西高東低」がある。県は県西部と東部の格差是正に向け、常駐の副知事を置き、地域限定の業務を担う東三河県庁を一二年に創設。東三河振興ビジョンを策定したり、東三河人口問題連絡会議を開いたりしてきた。

 東三河県庁が力を入れる新城ラリーなどスポーツ大会の観客数は大幅に伸び、昨年は三年ぶりに東三河での出生数も増加した。ただ東三河県庁はあくまで県の一部門で、独自の予算があるわけではない。ある県議は「うまく機能していないという批判もあるが、制約もある中で住民側から東三河県庁という仕組みを有効活用していく姿勢が求められている」と話す。

 東三河の活路を隣の静岡県との連携に見いだすのは、三遠南信地域連携研究センター長の戸田敏行愛知大教授。県は愛知、静岡、長野県にまたがる三遠南信連携を掲げるが、実際には県境で施策が寸断され、経済や人材の連携不足による機会損失が少なくない。「名古屋や豊田に対抗するには遠州との連携が鍵。人口減少は自然現象ではなく社会現象であり活路はある」と指摘する。

 (五十幡将之)

 <県勢メモ> 国内総人口が2008年から減少する中、人口増を続ける県も20年には人口減に転じると予測される。社人研によると、地域別では尾張が15年前後にピークを過ぎ、名古屋も20年にピークを迎える一方、西三河の8割の市町は20年以降も人口増を続けるとみられる。45年まで増加するのは長久手、高浜市のみ。県内は女性の比率が低く、20〜34歳では男性100人に対し女性約89人で全国最少。

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