候補者ルポ(上) 榑松佐一さん
スーパー前で買い物客らと握手する榑松さん(左)。演説では暮らし重視の政策を訴えた=名古屋市天白区で
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二十三日、名古屋市内のスーパー。日中の買い物客は女性が中心だ。「僕は生協出身です。価格に厳しいお母さんと随分やり合いましたよ。その意味じゃ百戦錬磨です」。選挙とはまるで無関係の話で気を引くと、一気にまくしたてた。「県民の暮らしはよく分かっているつもりです。暮らしの土台を支える県政に一緒に変えましょう」
この日、県労働組合総連合(愛労連)議長の新人榑松(くれまつ)佐一さん(62)が遊説先に選んだのは、市内でも人口の多い緑、天白区。午前八時から三十〜四十五分刻みで街頭演説を十一カ所でこなし、うち七カ所は住宅地にも近い大小のスーパー前だった。「人が集まりやすく、特に『口コミ力』のある女性票取り込みが狙い」と陣営関係者。本人も「選挙カーから手を振ってても、お年寄りと女性の反応はいいよ」と喜色を見せる。
「中部国際空港の二本目滑走路やカジノは不要」「教育や福祉、医療への予算配分で安心できる県政を」。主張の根幹は揺るがないが、場所などに応じて細部は工夫して変える。子連れの母親の姿を見かけると「保育士の待遇改善で保育、学童保育を充実します」。市営住宅が近いと「市営はきれいですね。県営も、単身者の入居を認め、若者支援策としての活用と修繕を進めます」と訴えた。
正午、昼食のため緑区の共産党地区事務所へ。揚げ出し豆腐に野菜の煮物など、おかず四品でご飯茶わんを空にすると、取り出したのはスマートフォン。選挙期間中も会員制交流サイト(SNS)で続けている外国人技能実習生らの労働相談だ。この日は千葉県で働くベトナム人実習生からの家賃に関する相談に平仮名で返信。「日本語だって十分通じる。よく勉強しているもの。同じ国に暮らす彼らを守ることも政治の重要な役割だ」。演説中は見せない険しい表情ものぞかせた。
一日中動き回れば、人影もまばらな場所での演説も。それでも各会場には、福島第一原発事故の避難者の母親や、知的障害のある三十代の娘がいる母校名古屋大の同窓生、反貧困運動で協力した元新聞記者らが駆け付け、固い握手を交わした。
演説と演説の合間のひととき。「そりゃあ告示二カ月前に出馬を決めた急ごしらえの候補だよ。でもだからこそ、選挙中にたくさんの人と会い、願いや思いを受け止めながら戦いたいね」。自嘲気味ながら、力のこもった表情でつぶやいた。
(安藤孝憲)
二月三日投開票の知事選は間もなく、後半戦に突入する。日を追うごとに熱気を帯びる新人の榑松さんと三期目を目指す現職大村秀章さん(58)の二人に記者が密着し、奮闘ぶりを伝える。