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課題の現場から(1)経済・外国人 人材受け入れの先は

2019年1月29日

医療機器に使う小型部品の最終仕上げをするベトナム人技能実習生=稲沢市の高瀬金型で

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 顕微鏡をのぞき、手作業で小さな部品を一つ一つ仕上げていく。「すごい集中力でしょ」。稲沢市のプラスチック部品メーカー「高瀬金型」の社長高瀬喜照さん(61)は、工場で働くベトナム人技能実習生らを誇らしげに見つめた。主力製品は水回りや人工透析機器のバルブなど。「彼らの目と手が、私たちの生活と健康を土台から支えている」

 十年前、ベトナムの首都ハノイへ自ら赴き、最初の実習生三人を採用した。今は従業員約百人のうち二割が外国人。「もはや欠かせない戦力という以上に当たり前の仲間になった」。給与は県の最低賃金と同額の設定だが、残業代やボーナスは日本人と同水準。毎年二月の国府宮はだか祭では、地区代表の裸男を住民と一緒に見送るなど伝統行事にも参加している。

 昨年末の入管難民法改正を受け、実習期間終了後も働き続けたい外国人が新設の在留資格に移行できるよう準備も進めている。ベトナム人女性のチャン・ティ・ゴック・ハーさん(24)は、在留期限を迎える五月にいったん帰国予定だが「仕事は楽しい。日本人の友だちもできた。絶対また来たい」。市内のボランティア教室で磨いた流ちょうな日本語で生活の充実を語る。

 法改正を巡っては、受け入れ環境整備を棚上げしたままとの批判が少なくないが、高瀬さんは「生活支援は一義的に受け入れ事業者が責任を持つべきこと」と受け止める。深刻な人手不足にあえぐ製造業では今後、企業の方が外国人から「選ばれる」立場になり、悪質、低待遇の企業は「淘汰(とうた)」されていくと言い切る。「環境や待遇を積極的に発信する必要がある。行政の支援が行き渡るのを待つ姿勢では、きっと取り残される」と危機感を隠さない。

 十七日告示された知事選では、候補者が外国人労働者支援や日本人との共生を訴えている。いずれも重要だと思う一方、高瀬さんには物足りなさもある。

 「外国人の問題と言うけれど、裏返せば日本人の問題。少子化が止まるわけではなく、中小企業の後継者不足が解決するわけでもない。外国人を受け入れることで、地域の社会や経済、産業をどうしていきたいのか。それこそ考えないといけないことなのでは」

 議論を求めたいのは、外国人材受け入れ拡大の、その先。既に国内屈指の数の外国人とともに歩む県だからこそ、将来像を思い描く必要があると感じる。

 稲沢市郊外の田園地帯にあるハーさんたちの職場には、選挙カーの宣伝はまだ聞こえてこない。「チジセン? よく分からないけれど、ベトナムの友だちたちに『アイチっていいところだよ』って、教えられるといいな」

(安藤孝憲)

 <県勢メモ> 県内の外国人労働者数は昨年10月末時点で15万1669人。ベトナムや中国出身者が多い技能実習生は、製造業を中心に3万3310人と全国最多で、2位の大阪府を約1万7000人上回る。愛知労働局の実習生受け入れ企業への調査では、17年中に監督指導を行った541事業所のうち、7割超の389事業所で、違法な長時間労働などの労働基準関係法令違反があった。

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 終盤戦に入った知事選。二月三日の投開票日に向け、県労働組合総連合(愛労連)議長の新人榑松(くれまつ)佐一さん(62)と三期目を目指す現職大村秀章さん(58)は、それぞれに掲げる政策を有権者に訴えている。雇用、福祉、子育て支援…。県内各地の課題の現場から現状を報告する。(この連載は全五回です)

 

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