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大村流を問う(下)対抗軸 財政力と福祉、火花も

2018年12月20日

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 十一月最後の知事定例会見。大村秀章がいつになく不快げに言った。「フェイク(偽)ではなく、ファクト(事実)に基づいた議論をしていただきたい」

 矛先を向けたのは、その一週間前に共産党などが推薦する革新系候補に決まった榑松(くれまつ)佐一。出馬表明で「高い財政力がありながら教育や福祉に生かせていない」と現県政への批判を展開していた。「あれほど過剰反応するとは」。戸惑いすら覚えた榑松だが「ファクトはある」と反論する。

 数値が高いほど健全財政とされる「財政力指数」で県は四十七都道府県中、東京に次ぐ第二位。一方、二〇一六年度決算額で県民一人当たりの歳出を比べると、教育費は四十二位、民生費は四十四位。「下位脱出」をうたう榑松は高校卒業までの医療費無料化などを掲げ、対決路線を鮮明にする。

 一方の大村も黙ってはいない。〇八年のリーマン・ショック後、県の税収は五千億円も激減し、地方交付税の交付団体に転落。会見では「今も臨時財政対策債や地方交付税がないと予算が組めない状況。財政が豊かだからやれるだろうという議論は極めてナンセンス」と榑松の発言を批判した。

 県労働組合総連合(愛労連)議長の榑松と、厚生労働副大臣を務めた大村。二人の活動はかつて交差したことがある。〇八年末、東京の日比谷公園に派遣労働者らが集まってできた「年越し派遣村」。政府側の大村が支援に奔走したことを現場にいた榑松は知っている。「労働、福祉行政への思い入れは伝わってくる」

 だが、その大村が知事となり、二期八年に手掛けた事業は、自動運転の実証実験や航空宇宙産業の推進、国際展示場の整備など、財界や大企業が絡むものが目立つ。「大きなことを言うのは構わない。だが足元では格差が広がり、低所得者や高齢者など困っている県民が多いことも紛れもない事実だ」。非正規労働者や外国人技能実習生らの声に耳を澄ませてきた榑松は語気を強める。

 来年一月十七日告示の知事選は大村、榑松の他に出馬の動きはなく、四年前と同じ「与野党相乗り」に「革新系」が挑む一騎打ちの構図が固まりつつある。榑松が代表を務める革新県政の会は一九八三年から十回連続で知事選に候補を立てることになるが、この間、相乗りが崩れたのは前知事の神田真秋が三選を果たした〇七年と、大村が初当選した一一年の二度だけだ。

 難航した今回の候補者選びで、革新県政の会は、市民団体や共産以外の野党と幅広い共闘を目指した。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の県内誘致反対で一致する立憲民主党との連携も探ったが、同党幹部は「あり得ない」と言下に否定。思惑は外れた。

 「何を優先すべきかを決める選挙だ。お望み通り、事実と県民の声を積み上げて戦いたい」と榑松。対する大村は厳しい財政状況の中、自らが手掛けてきた特別支援学校の新設や医療の充実などの施策を挙げ「他県にできないことを踏み込んでやっている」と胸を張る。県民の審判を仰ぐ選挙戦が間もなく始まる。

(敬称略)

(この連載は中崎裕、中尾吟、安藤孝憲が担当しました)

 

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