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大村流を問う(中)オール与党 消えた「村・村コンビ」

2018年12月19日

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 「自分は市に対して何を今まで言ってきたか。冗談じゃにゃあですよ」。十一月下旬、記者に囲まれた名古屋市長の河村たかしは不快感を隠さなかった。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の候補地として三重県のナガシマスパーランドを挙げたことに、知事の大村秀章が「他県他市の話を勝手に言うのはいかがなものか」と苦言を呈したためだ。市による大規模展示場の新設や名古屋城のエレベーター問題などを巡り、二人の間で深まる溝を象徴する出来事だった。

 大村は自民党を離党して挑んだ二〇一一年の知事選で河村とタッグを組み、「減税」旋風を巻き起こして初当選した。二カ月後の統一地方選では地域政党「日本一愛知の会」を率いて候補者を擁立。刺客を送られた形の既成政党とは、県議会でも対立した。

 ところが大村は同年十一月、最大会派の自民党県議団などの反発を受け、県民税減税の見送りを表明。減税分に相当する財源を産業活性化などに回し、事業名に「減税」を付けて体裁を保ったが、事実上は選挙公約の撤回だった。

 「表明直前に『減税を見送ります』って言ってきた。看板政策を降ろすのは相当の覚悟だ。こっちは負けたって思った」。自民の現団長、伊藤勝人は当時を振り返る。古巣との協調路線が始まり、今年九月の補正予算では自民が求めた河川の改修費が盛り込まれた。伊藤は「知事との関係があったから付いた予算」と満足そうに笑みを浮かべる。

 大村の就任当初、「減税よりも社会保障の充実を」と求めた民主党県議団(当時)との関係も変わった。一期目の終わり、大村は県発注事業に賃金保証などを求める「公契約条例」の案をまとめた。民主と支援団体の連合愛知が求めた政策だった。「対立より既成政党を味方にした方が早いと思ったんだろう」。民主の流れをくむ新政あいち県議団幹部は、大村の変化をそう語る。

 看板政策を取り下げ、既成政党の政策を取り込む手法で、大村は今、県議会に「オール与党」体制を築いた。開会中の県議会十二月定例会に県が出した議案は、各委員会審議では共産党が反対した一議案を除き、すべて全会一致で可決された。

 「政策の決定速度が上がるオール与党は、それ自体悪いことではない」。公明党の支持母体、創価学会と国会議員時代から関係が深い大村を一期目から支える同党関係者は言う。「名古屋市を見ていればわかるでしょ。一緒に歩み出した二人だけど、今では大きな差がついている」

 「河村人気に乗って当選し、その後は現実路線で支持基盤を固めた」。ある県議は大村流の八年をそう総括する。それだけに河村との関係は冷え込み、昨年四月の名古屋市長選で大村は河村を支援しないと明言。「村・村コンビ」の姿はなかった。当時を「わしはびっくりこいた」と振り返る河村だが、今回の知事選に対立候補を立てるつもりがあるかを尋ねられるたび、こう繰り返し、周囲をけむに巻く。「まぁよう分からんね。南無阿弥陀仏。阿弥陀さまにお任せしとります」

(敬称略)

 

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