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大村流を問う(上)一強 「独走」に評価と懸念

2018年12月18日

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 「行き場をなくしてかわいそうだ。どこかで引き取れんか」

 八月下旬、県庁内に知事、大村秀章(58)の指示が飛んだ。

 福島市に設置された防護服姿の子どもの立像「サン・チャイルド」。現代美術家ヤノベケンジが二〇一一年の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故をきっかけに、原子力災害のない世界にしたいという願いを込め、複数体を制作した。八月初め、JR福島駅近くに一体を設置すると「原発事故の風評被害を増幅する」と批判が高まり、撤去を余儀なくされていた。

 一連の報道に触れ、大村の脳裏に、一三年の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」で、福島と同じ立像が愛知芸術文化センター(名古屋市)に展示された当時の記憶がよみがえった。「ほとぼりが冷めたときに愛知で展示できないか検討を」。思い付いたら即行動に移す大村が動いた。

 担当職員はすぐに情報収集し、高さ六メートルもの像を屋内展示できる県施設はなかなかないことを報告。大村はそれでも展示の可能性を探らせたが、ヤノベが福島で展示したいという強い思いを持っていることが分かり、構想は見送られた。

 大村がこうした指示を矢継ぎ早に出すのは、県庁内では日常の光景だ。県内への国際会議誘致を構想した際には、既存の主要ホテルの開業年や面積、客室数、稼働率などを職員に片っ端から調べ上げさせ、大型ホテル進出に向けた現状と課題を探った。指示を受けた各課は即座に検討内容をまとめ、報告する。「スピード感が大事だ。職員にそういう意識を根付かせたい」。大村は時流を捉えた政策を常に意識する。

 官僚、自民党国会議員を経て、知事に就任して八年近く。大村が二期目に手掛けた事業は多岐にわたる。愛・地球博記念公園でのジブリパーク整備構想、世界最先端の自動運転車の実証実験、子どもの貧困調査、中部国際空港島の国際展示場建設、杉原千畝顕彰広場の整備。ある県幹部は「知事ほどのアイデアマンは庁内にいない」と舌を巻く。

 一方で、サン・チャイルドのように実現しなかった構想も多い。ある職員は「代表的なのは(一期目の公約に掲げた)中京都構想。実現するための具体的手法の検討を重ねたが、今はまったく話し合われていない」と明かす。「『トップダウン』の手法に慣れきってしまい、職員自身で事業を発案する意欲が低下している」と危惧する声も職員から漏れる。

 こうした大村の県政運営について、県内の政治情勢に詳しい愛知学院大教授の森正(政治学)は「スピード感があり、着実に実績を重ね、安定の県政運営をしてきたといえる」と評価する一方、こう指摘する。「今回の選挙で当選すればさらに力を強め、批判や意見をしづらい一強体制になる懸念がある」

 一強の光と影が県庁を覆っている。

(敬称略)

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 二〇一九年二月三日投開票の知事選の告示(一月十七日)まで一カ月に迫った。大村氏と新人の榑松(くれまつ)佐一氏(62)が立候補を表明し、現県政の是非を問う選挙戦が始まるのを前に、「大村流」の県政運営を行政、政治の舞台裏から探る。

(この連載は中崎裕、中尾吟、安藤孝憲が担当します)

 

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