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能登半島地震特集

能登半島地震 11カ月(1)  仮設住宅近くの『ケアハウス』

 窓に発泡スチロールを張って寒さをしのぐ。心に吹きつけるすきま風は、友と言葉を交わして和らげる。能登半島地震から二十五日で十一カ月。まだ雪の日がある。一日を通して青空の「もうけものの一日」がある。石川県輪島市門前町道下の仮設住宅に住む大石よしさん(82)は言った。「春を待っとるげん」。三寒四温を繰り返し、やがて春がやってくる。「おとろしかった」灰色の記憶を、桜色に塗り替えたい。待ちわびる人たちを同県穴水町と輪島市門前町の仮設住宅に訪ねた。(志賀通信部・小塚泉、穴水通信部・島崎勝弘)

白い紙に折り紙の花が咲いていく。(左から)塩士さん、山崎俊国さん、山崎しまさん、森さんの顔もほころんでいく=輪島市門前町道下の仮設住宅で

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集って手仕事やおしゃべり

門前の 高齢者

 輪島市門前町道下の仮設住宅から歩いて二、三分。「心のケアハウス」がある。日本海が近く、吹き付ける風は、時に激しい波の音を伴う。

 昼下がり。山崎俊国さん(89)が部屋にいた。「ここへ来れば、誰か友達もおるし。暖房も入っとるし。広いし」。三十畳の部屋では思い切り足を伸ばせる。友の顔、友の声。心が開く。

 紙のひもで編んだかごが完成に近づいた。「すごいね」と声をかけられ俊国さんの顔がクシャと崩れる。「みんなに助けてもらっている」。脳こうそくの後遺症が残る右手も動かして、完成にこぎつけた。

 玄関口に長靴が一足、二足…と増えていく。森千代さん(75)と山崎しまさん(76)が顔を見せた。

 カレンダーの裏に、花の形に切った色紙をはりつける。こぼれ落ちるように咲くピンク、水色、赤色の花。森さんが言う。「一生懸命つくっとると肩の痛みも忘れてしまうわいね。ものすごく楽しい」。隣でしまさんが「以下同文。アハハハ」と笑い飛ばした。

 火曜日にはリフレッシュ教室がある。必ず歌う歌がある。「元気が一番」。歌い出しは「人生いろいろあったけど/昔のことなどみな忘れ/一日一日大切に…」。みんなそらんじている。

 皆の笑顔を誰より喜ぶのは一緒にいる県健康相談員の女性たち。県職員を退職した塩士貞子さんや加茂野恭子さんら五人の保健師が交代で相談に乗る。血圧を測ったり、一緒に折り紙をしたりする。

 作品は、部屋の壁を埋めていく。折り紙のひな人形を見て、「かわいいね。次はこれ作らんかね」。にぎやかに明日の楽しみを語り合う時間がある。きょう一日のことで精いっぱいだった日々が過去になりつつある。

 「互いに元気を確認し合える場でもあるんです」と塩士さんらは言う。血圧が安定しない。家を建てる人を見送り、取り残された気持ちになる。知らずにため込むストレスにも気を配る。

 壁には仁岸川や阿岸川、皆月川…。ふるさとの川の写真が並ぶ。門前に住む男性が寄せた。

 ケアハウスへ通う大石さんは、年末から県外に住む長男、長女、二男の家で過ごし、二月十日に仮設住宅に帰ってきた。すぐに友がやってきた。「大根あるか。菜っ葉はあるか」と。

 心のケアハウス。開いているのは月曜から日曜と、表の張り紙にある。つまり毎日。休みなし。いつでも来てください。大家族のぬくもりが引き戸の向こうにある。

 

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