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能登半島地震特集

能登半島地震 10カ月(1) 輪島 被災時 聴覚障害者は

 ライフラインが途絶え、急な連絡は放送や人の声など音で伝わってくる地震の被災地−。聴覚障害者は「情報過疎」に陥る危険性がある。能登半島地震では、聴覚障害者に何が起きたのか。被災者と石川県輪島市、同県聴覚障害者協会の関係者に聞き、聴覚障害者への防災支援の在り方を探った。

避難所で聴覚障害者の安否確認などをする輪島市職員や手話通訳士ら=2007年3月28日、輪島市門前町で(同市提供)

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届かない 災害情報

携帯頼み 募る不安

公共の連絡体制整えて

 頼みの綱と思ったテレビのテロップは「避難」「能登半島で強い地震」などと、ひと言を伝えるだけだった。津波が来るのか山崩れなのか。それとも余震の恐れなのか。なぜ避難が必要なのか、理由までは教えてくれない。

◆字幕放送もなく

 輪島市新橋通りの臨床検査技師で、聴覚障害者の矢部美津子さん(59)は、市内の教会の台所で牧師の送別会用のごちそうを調理し終えた直後に被災した。近くの自宅に戻ると、とたんに“情報過疎”を感じた。地方用のテレビ放送の地震関連ニュースには、字幕や手話通訳がなかったからだ。

 「災害時は特に、自分で判断するためにはリアルタイムに情報が必要だ」と考えている矢部さんは、もどかしさでいっぱい。手にした携帯電話のメールで情報を集めた。

 輪島市からの聴覚障害者に向けた情報提供はない。代わりに災害情報を送ってくれたのは、要約筆記のサークル。余震も収まらない中、聴覚障害者らのために、地元のボランティアらが防災行政無線で流す情報を、事前に頼んだ障害者らに知らせていた。

 今回は携帯の情報が入り安心できた。しかし、そんなサービスも知らず、自宅が全壊して避難所生活を送っていたらと考えると、不安でいっぱいになる。

 県聴覚障害者協会と奥能登ろうあ協会には、地震で苦労した聴覚障害者の情報が伝わっている。

 輪島市の海沿いに住む能登町の七十代の男性は、津波についての情報が聞こえなかったため、家に居続け、避難が遅れた。七尾市では断水・給水情報が伝わらない聴覚障害者もいた。

 矢部さんは「助けてくれるボランティアも仕事があり、防災行政無線をすべて聞けるわけではない。高齢化が進むにつれ、難聴者も増えるだろう。行政サービスの公平性という点からも、市は聴覚障害者への災害情報の提供体制を整えてほしい」と訴える。

奥能登の聴覚障害者同士の交流などを目的に開いたミニデイサービスで料理を楽しむ関係者ら=2007年11月、輪島市女性センターで(石川県聴覚障害者協会提供)

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◆重要な社会参加

 地震を踏まえ、県聴覚障害者協会は、輪島市や珠洲市、穴水町、能登町と共同で、聴覚障害者の戸別訪問をした。

 奥能登の聴覚障害者には▽大半が家族と暮らしている▽障害者同士の交流が少ない▽文字や手話ができない人が多い▽福祉制度を知らない人が多い−などの特徴がはっきりした。

 県聴覚障害者協会と、奥能登ろうあ協会の中谷勲会長(65)は、これらの点を踏まえた防災対策が必要だという。具体的には「聴覚障害者同士が気軽に集まることができる送迎付きのデイサービス事業が適している」と提案する。

 どんなに立派な情報提供体制をつくっても、日ごろの連携がなければ機能しない。県聴覚障害者協会は、デイサービス事業によって聴覚障害者が社会に参加し、障害者同士や地域住民、行政と情報交換できる場になるとみている。

 また、県聴覚障害者協会は、協会に加盟していない障害者と交流を進めようと、昨年十一月、輪島市内で料理講習会と交流会を兼ねたミニデイサービスを開き、数人が参加した。今後も年五回ほどは開き、さらに交流を深めていこうとしている。

 

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