トップ > 北陸中日新聞から > 能登半島地震特集 > 記事一覧 > 5月の記事一覧 > 記事

ここから本文

能登半島地震特集

能登半島地震から2カ月 自宅再建 支援の現状

(上)「2年後には老人ホームへ行くしかない」とうつむく鶴岡さん=石川県輪島市門前町の仮設住宅で(下)再建した自宅の前で「平屋でもここに住めるのはうれしい」と語る矢田川さん=鳥取県日野町黒坂で

写真

 能登半島地震の発生から二十五日で二カ月。被災し、住宅を失った人は避難所から仮設住宅などに移り、生活は落ち着きを取り戻し始めた。年金暮らしの高齢者が多い地域だけに、今後は住宅再建の費用が重くのしかかる。公的な支援はごくわずかで、すでに再建をあきらめた人も少なくない。能登で途方に暮れる人、過去の地震から生活を建て直した鳥取県の人たちに話を聞き、支援制度の現状を探った。

高齢者『いつまで住めるか』

再建の資金めど付かず 年金生活 重い負担

 「子どももいないし、直してもいつまで住めるか分からない」。石川県輪島市門前町の無職鶴岡文子さん(85)はあきらめ顔を見せる。自宅は今年三月の能登半島地震で半壊。倒壊の危険もあって住めなくなった。

 年金暮らしで、再建資金はめどが付かない。鶴岡さんの場合、国と県から最高百五十万円の支援金が払われる。しかし、制度の使途制限で、修復や再建には県が負担する三十七万五千円しか使えない。見積もりを取るまでもなく、足りないのは明らかだった。二年後には今暮らす仮設住宅も出なければならない。「行きたくないけど、しかたない」。その時は老人ホームに移る決意をした。

 被害の大きかった輪島市門前町は、六十五歳以上の高齢者がほぼ半数になる。自宅再建に不安を抱える人は多く、市は公営住宅の建設で対応しようとしている。同町の無職男性(82)は「元の家が一番。公営住宅では戻ってこない」とつぶやく。対策が住民に受け入れられるかどうかは分からない。

 同県内の仮設住宅には三百十世帯七百十八人(二十日現在)が暮らす。

2000年鳥取西部地震 県と町の援助“奏功”

 高齢者の生活再建はこれまでも問題になった。

 二〇〇〇年十月六日の鳥取県西部地震。同県日野町は約千五百の全世帯が一部損壊以上の被害を受けた。六十五歳以上は人口の約三分の一。高齢者が自宅に戻ることをあきらめれば、自治体の存続すら危ぶまれた。当時、国からの支援金は最高百万円。しかも住宅再建には使えなかった。

 県は地震から十一日後、公費で住宅再建を支援する事業を発表した。年収にかかわらず、実費を上限に県と各市町村で住宅再建に最高三百万円、補修に同百五十万円を支給できる枠組みだった。枠組みの範囲の一部を住民に負担してもらった自治体もあったが、日野町は全額を負担し、壊れた住宅の撤去も公費でまかなった。

 全世帯の約四分の三にあたる千百世帯余が事業を使った。約千三百万円で自宅を建て直した同町黒坂地区の恩田孝雄さん(72)もその一人。「これで黒坂にいられると思った。落ち込んでいたとき、心の励みになった」と振り返る。約一千万円で再建した矢田川民雄さん(74)も「死ぬまでここで住めるのがうれしい」と笑顔を見せる。

自治体頼み限界も

 町は〇三年には復興を宣言し、担当者は「人口流出は食い止められた」と強調する。地震から六年半が過ぎた〇七年三月現在の人口は千五百五十二世帯で四千百七十三人。地震当時から約三百人減ったものの、地震前の過疎化のペースは下回っている。

 一方、町財政は危機に陥った。一般会計の財政規模が約三十三億円の町で、震災復興に五十五億円の補正予算を組んだ。住宅再建事業のために県から借りた十三億円のうち約十億円も返せていない。地方交付税が減らされたこともあり、〇六年度は約二億八千万円の歳入不足になった。

 町は職員の給与を平均10%削減。財政の健全化を目指すが、赤字はまだ累積して増える見込み。町職員は「どこの自治体も災害への備えはしておくべきだ」と戒める。

 「災害のたびに特例や自治体の独自策で被災者を支援する態勢は限界にきている。根本的に変える必要がある」。関西学院大学災害復興制度研究所の山中茂樹教授=災害報道論=は「再建は自力で」とする国の方針を改めるよう訴える。そして、能登半島地震では「県産材利用を条件に住宅の再建支援を充実するなど、さらなる上乗せで応急対応するしかない」と提案する。

『私有財産は自己責任で』 国は援助せず

鳥取西部皮切りに 石川など12都府県制度化

 地震など大規模な災害で被害を受けた人たちへの支援金は、被災者生活再建支援法にで基づき払われる。同法は阪神大震災をきっかけに一九九八年に成立し、現在の支給額は家財の購入や被災家屋の解体に最高三百万円。しかし、金が住宅本体の再建に使えないことから、国は制度をどう変えるか検討を進めている。

 同法は当初、「私有財産は自己責任だ」という考えなどから、家電製品など物品購入費として最大百万円を支給する内容だった。二〇〇四年の改正で、家屋の解体などで最大二百万円を追加することになった。

 また、改正四年後の〇八年をめどに見直す方針で、有識者による委員会で検討している。住宅再建に使えるようにすることを求める意見がある一方で、「大規模災害の時に対応できない」と否定的な意見も出ている。

 〇四年改正のきっかけになったのが〇〇年十月六日の鳥取県西部地震。国からは百万円しか支払われないため、同県は住宅再建にも使える金を被災程度にかかわらず再建で最大三百万円、補修で最大百五十万円を支給した。資金は県が三分の二、残りは市町村がまかなう。市町村負担分の三分の一は、一部を住民に負担するよう求めることができる。

 その後、水害などの災害で同県と似た支援策をとる自治体が相次いだ。〇六年末時点の内閣府のまとめでは十一都府県が住宅の再建に支援金を支払ったか、支払う制度を設けている。

 この時点では制度がなかった石川県も、今年三月の能登半島地震では住宅再建にも使える資金最高百万円を支給する。

老朽木造家屋に被害集中

地盤と共振、広い間口も影響

 全壊六百九棟、半壊千三百六十八棟(五月二十日現在)の被害を出した能登半島地震。壊れた建物の多くは築五十年以上の木造で、鉄筋コンクリートや鉄骨構造の被害は少なかった。揺れが往復する周期や地盤、建築当時の耐震基準などが影響したらしい。

 建物には質量や柱の数などによって固有の揺れの周期があり、木造家屋は〇・五−〇・七秒。石川県の輪島市、穴水町などで記録された今回の地震の周期は〇・五−一秒でほぼ一致し、地盤の揺れと建物の揺れが重なって共振が起こったとみられる。一方、揺れの周期が違う鉄筋や鉄骨構造は共振が起きなかった。

 また、金沢大の宮島昌克教授(地震工学)らは、七尾市、穴水町、輪島市門前町の地盤は川を流れてきた土砂などの堆積(たいせき)物が多いことを指摘。「地盤の揺れに対して地表面の揺れが増す傾向にある」という。

 木造住宅でも倒壊した建物には特徴があった。日本建築学会によると、一階が店舗や駐車スペースになった間口の広い住宅で被害が目立った。前面の道路と平行する壁が少なかった上、筋交いも施されてなく、揺れに耐えられなかったとみられている。

 一方、一九八一(昭和五十六)年の新耐震基準で定められた壁量の70%を満たした建物は大きな被害がなかった。金沢工大の後藤正美准教授(耐震工学)はシロアリの害や腐食にも言及し「古くても構造や維持管理がしっかりした建物は壊れなかった」と強調する。

 

この記事を印刷する

北陸中日新聞から
石川
富山