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能登半島地震特集

被災地に生きる(9) 観光

JR和倉温泉駅で宿泊客を出迎える和倉温泉旅館協同組合女将の会=3日、石川県七尾市で

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客回復へ地道PR

 「たった十秒、二十秒の揺れで、こんなにお客さんがいなくなるなんて…。今も信じられません」。石川県七尾市・和倉温泉の旅館「のと楽」の女将(おかみ)谷崎由美子さん(55)は、能登半島地震が発生した三月二十五日のことを思い出すと、ぼうぜんとなる。

 十五階建てなど三棟で計百七十六の客室は、地震による損傷はなかった。当日は宿泊客や結婚式で八百人が利用するはずだった。しかし、揺れの直後からキャンセルの電話がひっきりなしに入り、実際に宿を訪れたのは十分の一以下の六十人だった。

 和倉温泉には、旅館組合加盟だけで二十七の温泉旅館が軒を構え、年間約百万人が訪れる。多くは地震で被害を受け、当日に営業できたのは「のと楽」など六軒だけ。余震がほぼおさまった今でも二軒が再開できない。

 ゴールデンウイーク中も、落ち込んだ客足は回復しきっていない。「例年ならどこの旅館もいっぱいで予約は断ります。でも、今年はそんなことありません」。和倉温泉観光協会の芦本芳朗事務局長は話す。

 地震の影響は、経営体力の弱い小さな旅館をより苦しめる。ある旅館の女将は「先行きが見えない。従業員にも不安が広がっています」と涙ながらに窮状を訴えた。

   ◆  ◆

 苦しみの中、和倉温泉や輪島温泉の女将らが立ち上がった。四月十九日から四日間、千葉市の幕張メッセで開かれた「旅フェア」に出向き、能登の観光をPR。「元気宣言、能登」のポスターもつくった。今月三日から五日は、JR和倉温泉駅に女将が並び、温泉客を出迎える。

 その動きを県が支えた。地震で通行止めになった能登有料道路を連休前に復旧させ、メディアに広告も出した。

 観光関係者は「能登は危ないのでは」という印象が定着することを恐れる。一方で、「皮肉にもこの地震で能登に全国的な注目が集まった。この災いが観光客増に転じる可能性はあるはずだ」とみる人もいる。

 観光協会と旅行業者など七百団体が所属する「日本観光協会」(東京都)の企画・総括グループリーダー代理八代譲さんは「自然災害によるマイナスイメージの払しょくに特効薬はない」と言う。地道なPRと実際に訪れた人の「能登はよかったよ」という感想が観光復興のかぎになる。

 ◇能登の観光◇ 能登地域の観光関連の消費額は1215億5000万円(2005年)。石川県のまとめでは、4月25日現在、和倉温泉旅館協同組合加盟27旅館のキャンセル客は6万6413人。輪島市内の宿泊施設のキャンセルは1万5526人に上った。

 ◇記者の目◇ 「避難している方もいる中で旅行に行くのは申し訳ない」。「危ないのでは」だけでなく、そういう人も多いだろう。

 旅館の女将も「避難者がいる中、うちは大丈夫だからというのは心苦しい」と打ち明ける。観光施設で働く人にももちろん、被災した人がいる。

 一方で、観光客が来ないことには能登半島が本当の意味で“元気”にならないことも事実。苦しい状況を乗り越えなければならない。

 地震後、新潟県や福岡県など地震で被害を受けた観光施設の関係者が和倉温泉を訪れた。苦しさを知っているからこその温かい支援だ。一人でも多くの人たちが訪れることが、何よりも能登半島の復興につながっていく。 (七尾支局・寺本康弘)

 

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