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能登半島地震特集

被災地に生きる(8) 地場産業 粘り強く

地震で土蔵内に散乱した漆器を片付ける人たち=石川県輪島市河井町で(3月28日撮影)

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輪島塗・地酒

 大阪府守口市の大型ショッピングセンターに四月二十八日、石川県輪島市の伝統工芸品、輪島塗が並んだ。多くは地震で傷が付き、わん五つで一組だったのが四つになるなどセット崩れした品物。格安でばら売りし、人気を呼んだ。

 仕掛け人は業界最大手「大向高洲堂」社長の大向稔さん(63)。「今日、明日の金に困る人たちのために収入を得て、復興に回すのが急務。何か手を打たなければいけない」と狙いを語る。

 輪島漆器商工業協同組合には百六十業者が加盟。うち自宅、店舗が半壊以上した業者は約四十になる。特に仕上げ作業や保管に使う土蔵は90%が倒壊。再建資金はもちろん、運転資金のめども立たない業者もあるという。

 大向さんは危機を乗り越えようと、大藤漆器店など二十店と手を結び「輪島市漆器振興協議会」を設立。ショッピングセンターでのセールを実現させた。さらに、大向高洲堂は八日から東京のデパートで復興展示会を予定するなど攻勢をかける。

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 一方、「いまが我慢の時だ」と積極策に顔をしかめる人も多い。能登半島地震で輪島塗の業界は真っ二つに割れた。

 組合のある幹部は「安売りに走り、傷物を売って一時しのぎをしたら反動は必ず来る。信用を失えば、業界は終わりだ」と話す。これまで培ってきたブランドイメージ。その維持が最も大切だと訴える。

 理事長の岡垣昌典さん(54)は「輪島塗約六百年の歴史の中では、何度も大災害に遭っている。この被害も乗り越えられるはずだ」という。実際、地震から二、三週間後にはかなりの業者が新しい仕事場を確保し、一カ月後にはほとんどが作業を再開した。積極策を取らなくても復興に向けて進み始めている。

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 一方、もうひとつの地場産業の酒造業。輪島市中心部には造り酒屋四社があり、いずれも土蔵に大きな被害を受けた。しかし、今は復興を目指して活動している。さらに、うち三社の吟醸酒と酒造り責任者の杜氏(とうじ)がそろって、本年度の金沢国税局酒類鑑評会で優等賞を獲得。復興に向けて、明るい話題になった。

記者の目

 輪島塗業界は、なかなかのものだ。先行きを心配して次々手を打つ大手業者がいれば、「こんな程度では負けない」と強気の業界幹部もいる。どちらにもそれなりの根拠がある。一枚岩にならない、ダブルスタンダードが、輪島塗業界の強みと感じる。

 毎年冬、奥能登は厳しい寒さと大雪になる。人の手では超えられない大自然の力だ。「地面が揺れたくらいで負けてたまるか」と叫んだ造り酒屋の代表杜氏がいた。今回の大地震とて、いつも経験する厳冬の延長戦なのかもしれない。

 「過去を悔やんでも仕方がない。目を向けるのは将来だ」と皆、前へ歩み始めている。粘り強い能登の人に励まされた取材の日々だった。

 (輪島通信局・石本光)

  輪島塗  輪島市制施行50周年記念・図説「輪島の歴史」によると、大永4(1524)年に造られた重蔵神社の朱塗り・本殿内陣の扉=市指定文化財=の記録が残っている。これ以前から製造が始まり、約600年の歴史と推定されている。現在は高級漆器として国内はもちろん、フランス・パリの国際見本市で注目を集め、世界的なブランドとして知られる。生産販売高は最盛期の1991年度に180億円。2006年度は70億円で半分以下になっている。

 

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