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能登半島地震特集被災地に生きる(7) 高齢者の生活再建 限られた公の支援
「こんな年になって家がないがんなった(なくなった)。ホント困るわ」。杉本昭三さん(79)幸子さん(77)夫妻がため息をついた。 杉本さん夫妻の家は、能登半島地震で被害が大きかった石川県輪島市門前町道下(とうげ)地区にある。大きな揺れに襲われ、築四十五年ほどの住み慣れた木造二階建て家屋は柱四本が折れた。罹災(りさい)判定は「全壊」だった。 「小さな家でも、また建てんなんと」。昭三さんは話す。しかし、年金暮らしで資金のめどは立たない。八十歳目前になって家を建てることにもためらいがある。「どうするか迷っとる。先が何も見えてこん」 環境の変化を嫌い、仮設住宅は申し込まなかった。災禍を免れた敷地内の四畳半ほどのブロック建て倉庫に畳とカーペットを敷き、こたつを入れた。二人で暮らすには狭く、快適とはいかない。幸子さんは「冬はここやったら寒いやろね」と心配する。 ◆ ◆ 輪島市や穴水町の被災者生活再建支援窓口の担当職員は落胆する高齢者に胸を痛める。被災者生活再建支援法などに基づき、被災者に給付される生活再建支援金。その説明をすると高齢者は肩を落とすという。 給付額は最高三百万円。今回は県と各市町でさらに最高百万円を上乗せする。収入などで給付に制限があり、四百万円もらえたとしても百万円は家財購入、二百万円は住宅の解体などに使途が限定される。住宅の再建、補修には上乗せ分の百万円しか使えない。 将来の収入が見込める若い世代は、それでも比較的スムーズに再建計画を決められる。しかし、被害の大きい輪島市門前町は六十五歳以上がほぼ半数を占める。 高齢者らは公の金があてにできないと分かり、「建て替えたいが難しい」「建てても高齢。子どもも帰ってこない」と杉本さんと同じように戸惑う。市の担当職員は「心苦しい。国に対応してもらいたいのですが…」と言葉が少なくなる。 震災復興を研究する神戸大工学部の塩崎賢明教授(都市計画)は、同法が「生活再建に役立っていないのは明らか」と、住宅再建に支援金が使えるよう法改正を求める。当面の対策には早期の公営住宅の建設を挙げ、「場所や家の造りなど、いかに元の家に近づけて建てるかがカギだ」と話す。 ◇被災者生活再建支援法◇ 阪神大震災を契機に1998年、家財購入費などに最高100万円を支給する制度として成立。2004年に一部改正され、住宅の解体など居住安定経費の最高200万円がさらに認められた。住宅本体の再建、補修への支援は認めていない。能登半島地震のような自治体独自の支援例には、鳥取県が住宅再建費最高300万円を支給した2000年の鳥取県西部地震がある。 ◇記者の目◇「しおれとっても何にもならん」。生活再建に頭を抱えながらも、笑顔は絶やさないよう努めていた杉本さん夫妻の姿が印象的だった。高齢化が進む過疎地を襲った能登半島地震。とりわけ人口の半数近くが六十五歳以上という輪島市門前町は、高齢者をいかに手助けするかが町それ自体の復興に直結する。 入居が進む仮設住宅は、バリアフリー化がなされるなど、高齢者に配慮している。しかし、元の暮らしに戻れることが一番だ。畑仕事を生きがいにしている人もいた。 高齢社会が震災をどう乗り越えるか。これからの日本には大きなテーマだ。能登がその手本となるよう、国や自治体は全力を挙げてほしい。 (南砺通信部・飯田竜司)
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