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能登半島地震特集被災地に生きる(5) PTSD
心のケア 予断許さずいつもより早く下校すると、家族五人は用事で外出していた。遠くで消防車のサイレンが響いた。四月十八日、輪島市門前町道下の門前西小四年黒杉紗希さん(9つ)は、泣きながら避難所に駆け込んだ。能登半島地震の後、紗希さんは一人では心細くて仕方ない。大人にくっつき、夜は祖母と寝る。食欲もない。 医師の診察を二回受けた。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断こそないが「地震による精神的なショックが原因」と薬を処方された。 「大人でさえショック。子どもならなおさら」と母義美さん(41)は受け止め、登下校には学校の見える場所まで送り迎えするなど親子で触れ合う機会を多くするよう、気を付けていた。 地震が起きた三月二十五日、紗希さんは、両親と祖母ら家族で近所の諸岡公民館に避難した。余震が続く中、体は震え、気分も悪く、眠れなかった。翌日から約三週間、祖母や兄弟たちと親せきの家に避難し、四月十四日に自宅に戻った。所属していたミニバスケットクラブは、コートが救援物資置き場になって休み。友達や兄弟と遊べない日が続く。 「ストレスはたまっていないよ」。笑顔を見せる紗希さんが「あんなこと起きなきゃよかったのに」とぽつり。義美さんは「起きたことは仕方ない。家族や地域と、頑張って乗り越えようね」と励ました。 ◆ ◆ 輪島市教育委員会は四月上旬、市内の全十七小中学校を調査し、一部の学校にはカウンセラーも置いた。特別な問題は見つからなかったという。 他県から派遣された医師らの「子どもの心のケアチーム」も、予防のために地元の保育士や保健師らに被災した子どもへの接し方を伝えた。石川県こころの健康センター所長の清田吉和さん(60)は「多くの子どもが親と一緒にいた時間に地震が発生した。家族や地域のきずなが強い能登の地域性も、被害の軽減につながった」と話す。 それでも不安を訴える子どもはいる。現地を訪れた山梨県の児童精神科医水本有紀さんは「症状が約一カ月以上続くと、PTSDの可能性もある。不眠や食欲不振などの症状が続くなら、医療機関に相談するべきだ」と注意を促す。 ◇心的外傷後ストレス障害(PTSD)◇ 災害や事故などで不安、不眠、無気力などが2週間から1カ月以上続く機能障害。症状が3カ月未満なら急性、3カ月以上なら慢性。6カ月以上遅れて発症する遅延型もある。輪島市教育委員会は4月上旬に市内全17小中学校を調査。「地震のことを忘れてしまいたい」「物音に敏感になっている」など、地震への恐怖を示す計3項目で、平均約4割の児童生徒が「当てはまる」と回答。体の不調などを示す他の項目は数%だった。連休明けに再調査する。 ◇記者の目◇ 紗希さんに直接話を聞いてみて、能登半島地震はこんなにも大きな衝撃を与えたのかと実感した。ごく普通に生活している子ども。予期せぬ揺れで今も体調を崩しながら、気丈に振る舞って頑張って生きていた。偉いと思った。見守る父母、祖母、兄たちの温かい目。大家族できずなが深い能登の良さにも救われているなと感じる。 輪島市教委や県こころの健康センターの清田吉和所長は、現在の子どもたちの様子を「ひとまず落ち着いている」と評価する。しかし、症状が継続する場合もあり、見守ることは大切だ。能登の数少ない子どもたちの一日も早い回復を願っている。 (報道部・山内悠記子)
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