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能登半島地震特集能登杜氏の心意気 地震で大打撃も「結束し前向きに」
全国に名をはせる能登杜氏(とうじ)が丹精した「亀泉」や「鐘の里」で知られる石川県輪島市門前町の中野酒造。創業140年余の町内唯一の造り酒屋も、能登半島地震で被害を受けた。太いはりが組まれた酒蔵は倒壊を免れたが、新酒を貯蔵した容量4千−5千リットルのタンクは傾き、出荷を前にした一升瓶は倒れて粉々に。「どれだけの酒が流れ出たか、見当つかん」。6代目社長の中野隆さん(64)は余震を気に掛けながら、復旧作業に追われている。(報道部・前口憲幸) 「こんなでかいタンクが動くとは…。元に戻すといっても、1人や2人じゃ、何もできん」。半世紀近く酒造りに携わる従業員宮脇新作さん(77)は、巨大なタンクを前に立ちつくした。整然と並んでいた貯蔵タンクは、激しい揺れでコンクリートの土台からずり落ち、熟成中の酒がふたから飛び散った。 気温変化を和らげるため、酒蔵を覆う厚い土壁は、震度6強の揺れで崩れ落ちた。酒をかき混ぜるしゃもじ形のかいや、酒量を測るさし、道具を洗うたらい、水をくむ木だるは散乱した。「一升瓶は少なくとも200本は割れた」と中野さん。辺りは、割れた瓶から流れた酒の香りが漂う。 良質の水に熟練の技が加わり、「酒どころ」として名高い奥能登。11軒が加盟する鳳珠酒造組合によると、今年は暖冬の影響が心配されたが、能登杜氏の高い技術力で仕込みを終えた新酒の出来は上々。3月初旬のきき酒会で、高い評価を得たばかりだった。 新酒の出始めを襲った大地震。同県酒造組合連合会(金沢市)は国税局と協議を進め被害に遭った貯蔵タンクを別の酒蔵に移すなど特別措置を検討しているが、方法や受け入れ先は決まっていない。輪島市内では災害対策本部に「要注意」と危険度判定された酒蔵もあり、余震による2次災害も懸念されて復旧作業はままならない。 組合の金七政彦理事長は「ほぼ壊滅状態の酒蔵もあるが、今は奥能登各酒蔵の結束が大切。心を込めた酒を届ける、前向きな気持ちは忘れないでいたい」と語った。
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