トップ > 北陸中日新聞から > 能登半島地震特集 > 記事一覧 > 3月の記事一覧 > 記事

ここから本文

能登半島地震特集

輪島朝市「今は辛抱」 ふれあい復活を心待ち

「朝市でピンピンの魚を見てもらうのが一番の楽しみ」と語る米谷はる子さん=29日、石川県輪島市の輪島港で

写真

 新鮮な山海の幸や民芸品を並べ、「こおてくだぁ」と声を響かせるお年寄りたちの姿が消えた。能登の観光を代表する「輪島の朝市」(石川県輪島市)は、能登半島地震以来、活気を失っている。それでも朝市きっての“名物おばちゃん”で、鮮魚売りを営む米谷はる子さん(78)は「今は辛抱や。ちょっこずつお客さんは戻る」。復興を信じ、再開の準備を進める。(報道部・前口憲幸)

 「ずっと家におっても何していいか分からん。雪の中をリヤカーを押して歩いたときにも感じたことがないつらさや」

 観光客がいないことから地震後に店を出したのは28日だけ。大好きな朝市が開けないことが気持ちを落ち込ませる。

 「ピンピンした魚を並べて座り、大勢の人に見てもらうのが生きがい。うまい魚は能登の一番の楽しみや」。今冬の朝市感謝祭では体長約1・5メートルの巨大アンコウを通りの真ん中でつるし切りし、会場を沸かせた。

 朝市は例年なら春休みから本格始動する。360メートルの通りに、いつもなら200店前後、大型連休は250店近くが出店し、年間約100万人訪れる。能登の方言丸出しの会話を楽しむ買い物ツアーは全国に知られる。取れたばかりの野菜や鮮魚を前に、観光客らと季節や食べ物、町の話を交わす。「朝市を通してなじみのお客さんができるのがうれしい。売ることよりも心が通じ合うことが楽しい」

 それだけに、本格的な観光シーズンを前に被災したことはショックだった。29日に並んだ店は4、5軒程度。近くの同県七尾市の和倉温泉も打撃を受け、アクセス道の能登有料道路は陥没により一部閉鎖のまま。

 米谷さんの愛用のリヤカーを入れる倉庫も災害対策本部の危険度判定で「要注意」とされた。それでも「おとろし(恐ろし)て店どころじゃなかった。でもいつまでもくじけとれん」と思う。

 全国のなじみの客から安否を気遣う電話が入り、勇気をもらった。その倉庫で出店の準備を始めた。「明日から朝市に出ようかなと思う。もうちょっと我慢しとれば輪島は元気になるわいね」

 

この記事を印刷する

北陸中日新聞から
石川
富山