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能登半島地震特集

輪島塗「傷物売らぬ」 商品散乱、一つ一つ点検

余震が続く中、輪島塗が散乱した倉庫を片づける塩士さん(右)ら=28日午後、石川県輪島市河井町で

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 能登半島地震は、高級漆器で知られる「輪島塗」の伝統工芸も直撃した。石川県輪島市に軒を連ねる老舗の漆器店は地震から3日が過ぎた28日も、ほとんどが営業できないまま。それでも各店は「無責任に売るわけにいかん」と漆器に傷がないか一つ一つ点検。輪島塗の美術館もきちんとした形で紹介できるまで開館しない方針。蒔絵(まきえ)や沈金など高い芸術性を世界に発信する“ジャパン・ブランド”を守ろうと職人や関係者たちの闘いが続いている。(報道部・前口憲幸)

 盆やわん、はし、重箱が、壊れたきり箱や紙製の化粧箱から飛び出し、段ボールとともに散乱。「信じられん。これも、あれも…」。輪島塗製造販売「藤八屋」社長の塩士正英さん(59)は、足の踏み場もない倉庫でぼうぜんとしながらも後片づけを続けている。

 観光名所の朝市通りにほど近い、輪島市河井町。創業明治中期の老舗は全壊こそ免れたが、土蔵は傾き、土壁は崩れた。木製たるに入った漆も流出した。輪島塗は124の工程から生まれる繊細なデザインと頑丈さが特長。その自慢の光沢もめちゃくちゃになった。

 今なお余震は続き、2次災害を懸念した塩士さんは29日にも建物を取り壊すことを決めた。

 しかし、こんな状況でさえも、塩士さんは「少しでも傷があれば、売ることはしない」と漆器を一つ一つ丹念に確かめ、輪島塗職人としてのプライドを持ち続ける。

 古今の漆芸家作品を展示する同県輪島漆芸美術館(同市水守町)も地震以降、開館のめどは立っていない。学芸員の細川英邦さん(36)は「伝統の技を中途半端な状態でお見せすることはできない」と慎重な口ぶり。「漆芸に携わる誇りを持ち、焦らずに受け入れ態勢を整えたい」と話した。

 塗師屋や木地屋を含め、市内約160の組合員が加盟する輪島漆器商工業協同組合は、現在、地震による被害の確認に追われている。同組合は「心配の声も寄せられており、できるだけ早く営業を再開したい。ただ、伝統を汚すことのないよう、時間をかけてもしっかりと点検したい」としている。

 

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