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能登半島地震特集

全身に衝撃「爆弾かと…」 高齢者ら2500人避難

 「ドーン」と突き上げる激しい揺れが、北陸地方を襲った。25日朝に発生した能登半島沖地震。震度6強を観測した石川県能登地方を中心に、各地で民家が倒壊し、死傷者は150人を超えた。春近い日曜日、病院は患者であふれ、のどかだった町並みは無残な姿に変わり果てた。余震も収まらず、避難した住民約2500人は不安な夜を過ごした。

能登半島沖地震で倒壊した寺院=25日午後3時、石川県輪島市門前町で、本社ヘリ「わかづる」から

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 壊れた家屋の屋根瓦が、道路をふさぐ。路面は亀裂が走る。被害の大きかった輪島市門前町を取材した記者は、余震におびえ、跡形もないわが家の前で立ちつくす人たちの姿に胸が痛んだ。

 「ドーンと下から突き上げられた。爆弾が落ちたかと思った」。門前町六郎木の無職中村勲さん(78)は、こたつでテレビを見ていて全身に衝撃を受け、屋外に飛び出した。たんすが、げた箱が、めちゃめちゃに壊れた。目の前で起きたことが「信じられなかった」と振り返る。

 町は消防車両のサイレンが鳴り響く。あちこちで切れた電線が垂れ下がり、迷彩服姿の自衛隊員が警戒する。神社の鳥居が落ち、墓石が倒れていた。「まるで地獄や」。沿道にしゃがみ込んだ女性(70)がつぶやいた。

 電話は不通。そして断水。国道249号沿いにあるわき水「樋(とい)の水」では、ペットボトルを持った人たちが列をつくった。しかし、地元でふだん「どこよりもうまい水」として自慢の水は、地震の影響か、茶色く濁った。家族4人でくみにきた門前町道下の教員田中丈以さん(30)は「最低でも沸騰させれば、飲料や料理に使えるかと思っていましたが…」と表情を曇らせた。

 「ちょっと手伝ってもらえんか」。長靴を履いた小柄な女性(89)に、声を掛けられた。一人暮らしという女性は、自宅の倒壊は免れたが、倒れた家庭用ガスボンベを動かせず、心配と訴える。長靴のまま室内に入る女性に案内されて驚いた。家財道具が茶色い泥に埋もれている。水道管が破裂した影響らしい。「これは神棚のお神酒やった」。たまった泥の中から、大事そうに酒の瓶を拾い上げた。

 取材した地区は、昨年2月に輪島市と合併した旧門前町。旧町は総人口約7千人のうち、65歳以上がほぼ半数を占め、石川県内で最も高齢化率の高い自治体だった。体育館などに避難所は確保されたが、地区の復旧には明らかに人手が足らず、お年寄りの多くが途方に暮れていた。地震は深刻さを増す能登の過疎化も浮き彫りにした。

  (報道部・前口憲幸)

 

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