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神聖さを損なうな 論説主幹・島田佳幸

2017年10月23日 朝刊

 今選挙は、与党・自民党の勝利で終わった。現政権への評価というより、野党が割れて批判票がばらけ、漁夫の利を得た面があったとしても、民主主義を奉じている限り、選挙の結果はあくまで神聖である。

 さはさりながら、振り返ってみると、これほど神聖でないことに彩られた選挙もそうはないだろう。

 そもそも、なぜ今、総選挙かという理由が神聖さを欠く。透けて見えたのは、野党のすきを突けば、という首相のそろばん勘定、自身にからむ疑惑の焦点ぼかしという打算…。神聖さとは対極、むしろ計略の気配が漂う。

 一方、野党も負けていない。突如出現した希望の党は、主として安保関連法への支持を踏み絵に民進勢を「選別・排除」。すると、あろうことか、安保関連法に反対したはずの民進議員の少なからぬ面々がそれをあっさりのんで、希望の党に身を寄せた。さて、この“当選ファースト”ともいえる行動のどこに神聖さを感じたらよいものか。

 その希望の党自体も、自民党とは違う選択肢として振る舞い、政権選択選挙だと主張もしながら、誰を首相に指名するのか明確にしないままだった。これはもはや、選挙の神聖さへの挑戦であろう。

 わが国は少子高齢化と財政危機という、まさに<あちら立てればこちらが立たず>的な不可避の大問題を抱えているが、それへの包括的対応の提案は、どの党からもほぼ聞かれなかった。国民の負担をやめる、減らすといった甘言ばかりでは、選挙の神聖さに恥じぬ訴えとは言い難い。

 その消費税の扱いのほか九条改憲、原発政策といった争点への各党の主張は微妙にズレつつ入り組んでいて、有権者が投票先の決定に苦慮したことは想像に難くない。畢竟(ひっきょう)、選挙結果だけから何が同意されたかを明言するのは難しい。

 自民党政権継続が選択されたのは確かだが、無論、安倍政治の全面的信任ではない。せめて、結果を都合よく解釈し、あれにもこれにも同意を得たかのように事を進めることがないよう願いたい。それこそ選挙結果の神聖さを最も損なう振る舞いであろう。

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