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希望公約「内部留保課税」効果は?

2017年10月20日 紙面から

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 衆院選で希望の党が公約に盛り込んだ「内部留保課税」に対し、経済界は二重課税に当たるなどと猛反発している。一方、多くの人が景気回復を実感できないのは内部留保に原因があるとの見方もあり、アベノミクスの果実をどう分配するかが問われている。

 財務省の法人企業統計によると、大企業の内部留保(金融、保険業を除いた全産業の利益剰余金)は二〇一六年度末で四百六兆円。アベノミクスが始まった一二年度末と比べると百二兆円(33・4%)増えた。

 企業が現預金や有価証券で保有する「手元資金」も同じ期間で20・2%増えて二百二十八兆円に達している。働く人の賃金に当たる人件費の総額は2・5%しか増えておらず、対照的な状況だ。

 特に東海地方の大手メーカーは資金に余裕を持たせる傾向が強い。資金の潤沢度を示す指標として、総資産に占める手元資金の割合を調べると、東海四県(愛知、岐阜、三重、静岡)の製造業の大企業では〇八年のリーマン・ショックを境に急上昇。一六年度末は16・8%で、全国平均の11・1%を大きく上回った。

 トヨタ自動車では一二年度末に三兆二千億円だった手元資金が、一六年度末は五兆八千億円まで増えた。同社幹部は東日本大震災の当時を例に「もしも全ての生産ラインが止まれば、一カ月あたり四千億円、半年で二兆円を超す運転資金が必要になる。リスクが生じた時に国は助けてくれるのか」と指摘する。

 リーマン・ショックや東日本大震災などの危機を相次いで経験した企業には、余裕ある備えが必要との意識が根付いている。さらに経団連の榊原定征会長は、税金支払い後に残る内部留保への課税は二重課税だなどとして「どんな角度から見ても受け入れられない」と批判した。課税を避けようとする企業が海外に逃げてしまうとの懸念もある。

 しかし、内部留保の増大を「企業がもうけをため込んでいる」と見る向きは多い。希望の党は、内部留保への課税が消費税の代替財源になる上に、剰余金を減らそうとする企業が賃上げなどに動くと主張する。

 中部圏社会経済研究所(名古屋市)の島沢諭氏は「景気回復を実感できないのは大企業に資金がとどまっているからだという問題意識は正しい」と分析。一方で、内部留保に課税しても賃上げに資金が回る状況ではないとして「財政や社会保障制度を安定させ、経営者の賃上げへの不安を取り除く方が大切だ」と語った。

 (石原猛)

 <内部留保> 企業の税引き後の純利益から役員報酬や株主配当を差し引いた剰余金を積み立てたもの。必ずしも現金や預金で残っているわけではなく、投資をすれば、工場などの生産設備や子会社の株式といった資産の形で保有することになる。韓国では2015年に内部留保課税を導入したが、配当金を増やした程度で賃上げなどの期待された効果は見られなかった。

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