全国
2017年10月17日 紙面から
![]() |
衆院選で各党が大学授業料の減免や奨学金の拡充などを公約に掲げ、教育政策の充実を競い合っている。中でも高等教育の無償化は、高額な学費に親への負い目を感じてきた私立高校の生徒にとって「望んできたもの」のはずだった。ところが今、胸中は複雑だ。政治が「若者に目を向けてくれた」と思う半面、政治に「利用されてはいないか」。十八歳の新有権者は冷静に考える。
「真に必要な子どもに限り、高等教育無償化を必ず実現します」
衆院解散を表明した九月二十五日の記者会見で、こう述べた安倍晋三首相。金城学院高三年の伊藤琴音さん(18)は「私たちの声がようやく届いた」と感じた。学費の公私格差の是正を仲間たちと求め続けてきたからだ。
愛知県内の私立高生らの自主活動団体、県高校生フェスティバル実行委員会(高フェス)の六十三代目委員長を務める。団体はもともと一九八〇年代、県の私学助成削減に反対する生徒らの活動として立ち上がった。伊藤さんたちは今も、経済的理由で通学できない仲間を救おうと、週末の街頭募金などに取り組む。
街頭では「私立に通うなら高い学費を払うのは当たり前だろ」と心ない言葉を浴びせられることもある。有権者として迎える初めての選挙で、身近な教育のあり方が議論されるのは「素直にうれしい」と思う。
首相の会見後、各党は幼児教育や高等教育を無償化する方針を次々と打ち出した。だが伊藤さんには疑問が残る。各党の差がいまひとつ分からない上、政策実現のための財源の曖昧さを指摘する声も聞く。首相の「真に必要な」の言葉も引っ掛かる。「もしかして、単なる人気取りなんじゃないの」と不安になる。
十八歳選挙権が初めて導入された昨年の参院選では与野党が返還不要の給付型奨学金の新設を唱え、選挙後に試行的に実現した。
昨年まで高フェスの役員だった日本福祉大一年の佐藤和花さん(18)は父子家庭に育ち、創設初年度の給付型奨学金を申し込んだ。だが所得要件を満たさず、現在は月三万円の貸与型奨学金を借りる。給付型は所得、成績両面の条件が厳しく「本当に必要な人に届く制度になっているのか分からない」。政党の言う無償化にも何か「落とし穴」があるかも、と疑いたくなる。
参院選の時は十七歳だったので、今回が初めての投票。十四日は久々に、名古屋市熱田区にある高フェスの事務局を訪ね、衆院選が持つ意味を現役高校生らと一緒に考えた。改憲や消費税増税の是非など、教育無償化以外にも大切にしたい争点がたくさん挙がった。
「政治が若者に向き合い始めてくれたことを実感する」と佐藤さん。「だからこそ私たちは、聞こえのいい内容に惑わされず、しっかり見極めないと」
(安藤孝憲)