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全国

新たな区割り、現場は 

2017年10月14日 紙面から

 二十二日投開票の衆院選は七月に施行された改正公選法で、十九都道府県の計九十七選挙区で区割りが見直されてから初の選挙となる。

 法改正は、議員一人に対する有権者数が選挙区ごとに違うことで生じる「一票の格差」を是正するのが目的だが、人口減少に直面する県は議員数の減に直結。地域の実情が国に届きにくくなり、人口減に拍車が掛かると指摘されている。

 また、選挙区の有権者数を平準化するため、これまでと異なる選挙区に組み入れられた自治体や地域では、有権者と立候補者は互いになじみがないままギクシャクした選挙戦が続く。

 東日本大震災で壊滅的な被害を受け、今回の法改正で本州最大の選挙区になった岩手2区のほか、中部地方で見直し対象になった愛知14区と三重4区の現状を追った。

◆人柄は?遠のく政治 愛知14区、三重4区

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 衆院選の「一票の格差」是正のため区割りが変わった愛知県幸田町は、生活圏や経済圏が共通する岡崎、西尾両市の愛知12区から豊川市などの14区に移された。14区では共産新人、自民前職、希望新人の三人が立候補している。

 「どんな人が候補者なのか気になって」。町内で開かれたある陣営の個人演説会に足を運んだ会社員の大隅千晶さん(56)。「ポスターは目にしたけど、本人を見かけたことはなかったから」。ガソリンスタンド従業員の清田正真さん(67)は「投票の判断が難しくなった」と話す。これまでは所属する写真クラブの展覧会に顔を出す候補者と話し、信頼できるかどうかみてきた。「今回は名前も政策もよく分からん。まして人柄なんてねえ」と困惑する。

 候補者もなじみの薄い町での活動に一苦労。支援する町議の働きかけで、公示後の十二日に初めて町に入った候補者もいる。

 元会社員の石川末雄さん(82)は「一票を大事にするための区割り変更のはずなのに、住民の声は聞かずに決められた。投票しても果たして民意が反映されるのか」と納得していない。

 三重県は選挙区の一減に伴い区割りが大きく変更。多気郡の多気、大台、明和の三町は歴史的、行政的な結び付きが強い松阪市などと切り離され、南部の新4区に入れられた。ここでは自民前職、共産新人、希望元職の三人が出馬した。

 「親の代から応援してきた議員が別の選挙区になった。今回の選挙は全く気持ちが入らん」と多気町の建設業男性(67)。同町で総菜店を営む内田俊哉さん(55)は「もう選挙なんか手伝わないという人が多い」と地域で政治離れが起きていると感じる。

 「すみません、本人です」。ある候補者は十二日、大台町で開いた個人演説会で来場者に握手をしようと出迎えたが、素通りする人もいた。「最初はあんた誰や、と言われた」

 明和町から同じ選挙区の県南端まで車で三時間。中井幸充町長は「選挙区が広くなればなるほど、地域の声は届きにくい。実情を無視した区割りをされ、田舎では政治はますます遠くなる」と嘆く。

◆声届く?被災地不安 本州最大の岩手2区

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 東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県は、衆院選の一票の格差是正のため選挙区が一つ減った。津波被害が大きかった南北百五十キロを超える沿岸部が一つにまとめられ、本州一広い選挙区となった。「被災地の実情が国に届きにくくなるのではないか」。現地を歩くと、復興の遅れを懸念する被災者の切実な声が聞こえてきた。

 行き交うダンプカーが土ぼこりを上げ、新しく築かれた防潮堤が海への視界を遮る。震災から六年七カ月。約千八百人の死者、行方不明者を出した岩手県陸前高田市の中心部は更地のままで、山あいには仮設住宅が残る。「前回の選挙はここで候補者の演説もあったが、今回は来るかどうか」。仮設で暮らす小野田高志さん(80)がため息をつく。

 陸前高田、大船渡、釜石の三市、大槌(おおつち)、山田両町の旧岩手3区の県南部沿岸は、定数減による区割り変更で県北部沿岸などとともに新2区になった。その結果、沿岸部を選挙区とする議員は二人から一人に減る。

 面積は隣の青森県全体に匹敵する約九千六百五十平方キロ。陸前高田市から北端の洋野町まで、車で五時間かかる。ある陣営関係者は「選挙期間中に二周できるかどうか。自転車で一日に何周もできる大都市がうらやましい」とこぼす。

 今回、新2区から立候補した希望元職と自民前職は、旧3区で出馬した経験はない。小野田さんは「地元の被災状況を知る人しか、国に必要な支援を伝えられないのに」と気をもむ。

 実際、復興への課題は山積している。

 今も仮設に住む被災者は、高台の土地造成の遅れで自宅の再建に取りかかれない人が多い。釜石市は本年度中に造成を終える計画だったが、建築費高騰などによる工事の入札不調や事務職員不足が足を引っ張る。造成をほぼ終えた大船渡市も、津波被害の跡地活用が土地買収などの難航で十分に進んでいない。

 「今より人が減って商売を続けられるだろうか」。大槌町で営んでいた菓子店を津波に流された大坂尚(ひさし)さん(41)は被災後、仮設店舗で営業。復興支援者らでなんとか売り上げを保ったが、三年が過ぎてから急に客足が減った。店を畳み、職を求めて町を出た人たちも少なくない。震災前、約一万五千人だった町の人口は震災犠牲者も含め三千人も減った。

 衆院選公示日の十日、町を訪れた立候補者は一人もいなかった。大坂さんは言う。「国に届く声が小さくなれば予算も少なくなる。こうして震災は風化していくのか」

◆「復興、後回しにされる」

 一票の格差是正と被災地など地方の声。政治はどうバランスをとるべきか。

 岩手県陸前高田市出身で旧岩手3区の衆院議員を六期務め、今回の解散後に引退表明した黄川田(きかわだ)徹さん(64)は「被災地を知る議員が減れば復興はどんどん後回しにされる」と懸念する。

 黄川田さんの妻と義父母、長男、秘書も震災で亡くなった。全ての震災犠牲者の実に三分の一近い五千五百人以上が旧3区の市町の住民だ。この地域は少子高齢化で今後も人口減少が続く見込み。黄川田さんは「戦後の大都市の発展は、地方から就職した金の卵が支えた。地方の声を軽視し、有権者の数だけで区割りを考えていいのか」と語る。

 政治制度に詳しい上智大の中野晃一教授(政治学)は「一票の価値の平等は大切だが、定数が減った地方の意見は国政に反映されにくくなり、さらに住民離れが加速する恐れがある」と指摘。「地方分権も進まない中、とにかく定数を減らすという手法に限界がきているのかもしれない」と話す。

 (杉藤貴浩)

 <改正公選法> 議員定数は全体で10削減され、戦後最少の465になった。人口減少の進む青森(4→3)、岩手(同)、三重(5→4)、奈良(4→3)、熊本(5→4)、鹿児島(同)の6県で選挙区定数が1ずつ減り、比例代表でも東北、北関東、近畿、九州の4ブロックでそれぞれ1減った。19都道府県の計97選挙区で区割りが見直され、住民基本台帳人口(1月1日現在)による試算で、最大格差が1・955倍となり、改定前の昨年の2・148倍から縮小した。

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