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自衛隊「憲法に明記」、隊員・家族は

2017年10月13日 紙面から

C130H輸送機が並ぶ航空自衛隊小牧基地。憲法9条が争点になり、不安を感じる自衛官もいる=本社ヘリ「あさづる」から

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 戦争放棄や戦力不保持をうたう憲法九条の改憲が大きな争点の衆院選。自民が自衛隊を明記する公約を掲げる一方、共産や立憲民主などは反対の立場だ。安倍政権下で自衛隊の活動範囲が一気に広がり、さらに改憲発議ができる三分の二を改憲勢力が超えるかどうか注目される中、当の自衛官や家族らは複雑な思いを抱く。

◆疑念

 「自衛隊が明記されてどうなるのか。(他国を武力で守る)集団的自衛権も認められ、戦地での任務が生じるかもしれない」。陸上自衛隊中部方面隊第一〇師団の三十代の男性自衛官は疑念がよぎる。

 阪神大震災での人命救助に感銘し「人のためになる仕事を」と入隊。東日本大震災で自ら東北地方で活動し、存在意義を感じた。男性は「それだけでいい。別に、憲法に書かれなくても」と思う。

 「戦地で戦う態勢も心構えも、今の自衛隊にはない」とも明かす。合同演習で指揮する米国の軍人は経験豊富だが、戦地を知らない自衛隊幹部が「本番」で統率できるのか。「戦地に行くという現実を突きつけられたら、辞めてしまう人がいるかもしれない」

 九条の話題が「職場で話題に上ることはない」という。「改憲で、戦後続いた平和を脅かす事態にならなければ良いのですが…」

◆不安

 自衛官の夫がいる愛知県内の四十代女性は「私は九条改憲に否定的です」と話す。

 大学卒業後、自衛官として基地で勤務していた時に同じ職場で夫と知り合った。結婚退職し子育てをするようになって、夫の身を一層、案じるようになった。

 一九九〇年代に国連平和維持活動(PKO)が始まってから自衛官の危険は増していると思う。改憲で、米軍とともに戦闘の最前線に送られ、命を落とす人が出るかもしれない。「死んでしまったら、残る家族はとても納得できない」

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 家では派兵などの話題に触れない。自衛官の家族同士で、こうした問題について会話を交わすことも少ない。妻らが集まって反対の声を上げれば、安倍政権下で成立した「共謀罪」が適用されるのではないかと怖くなる。「家族は口をつぐむしかない運命なのです」

◆本音

 「自衛隊は外国から見れば完全に軍隊。現状は明らかに違憲だ。必要なら憲法に『軍隊』と明記してほしい」。岐阜県隊友会会長の赤谷信之さん(72)の正直な思いだ。

 陸自の富士学校機甲科部長などを歴任した。忘れ難いのは、一九九八年の長野五輪での出来事。隊員二千人からなる支援団の副団長を務め、会場設営などを担当した。来場者らは、雪をかき分けて働く隊員たちに温かい言葉を向けた。「市民の声を聞いて意気に感じた。普段は表舞台に出ないが、外から認められるのが一番大事なんだ」

 自衛官は、有事の際は命を投げ出してでも国を守ると宣誓する。憲法上の根拠がない現状に「改憲しないなら自衛隊をなくしてもいい。国民に実態をよく理解してほしい」と訴える。

 (衆院選取材班)

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