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傍観者ではいられない 編集局次長兼社会部長・寺本政司

2017年10月11日 朝刊

 自身の足元でくすぶる森友、加計(かけ)疑惑を棚上げし、奇襲解散に踏み切った安倍晋三首相。政治不信が高まる中、急ごしらえの新党や公約を見せられ、戸惑う有権者も多いだろう。今回の衆院選で問われるべきは他でもない、巨大与党を背景にした「安倍一強」の是非だ。

 四年十カ月に及ぶ第二次安倍政権。この間、衆院選と二度の参院選で勝利した安倍首相は「政治は結果である」と胸を張る。が、多様な民意が共存する民主主義社会では、政策がどのように決定されるのか、というプロセス(過程)も重要だ。その点で、首相の政治姿勢に疑念がわく。

 特定秘密保護法、安全保障関連法、「共謀罪」法…。過去三回の国政選挙でいずれも経済政策を訴えながら、選挙後の国会で成立を急いだのは国論を二分する重要法案。反対する少数野党を「数の論理」で押し切り、国民に信を問うことはなかった。そこには「勝てば官軍」という勝者の驕(おご)りがちらつく。

 森友、加計疑惑もそう。真相究明を求める国民の声に「謙虚に丁寧に応える」と言いながら唐突に「国難突破」を持ち出し、論点を北朝鮮の脅威や消費税にすり替えた。こうした首相の姿勢に身内の自民党内から目立った反論や異論がなく、安倍一強の下で権力のチェック・アンド・バランスが利きにくくなっている。

 その意味で野党の責任は重い。サプライズや話題先行の「劇場型」は既に賞味期限切れだ。大風呂敷を広げた公約を連呼するだけでなく、その具体策を愚直に語るべきだろう。

 例えば「原発ゼロ」を目指すなら核燃料サイクルから撤退するとか、北朝鮮への外交圧力を高めるため国連の核兵器禁止条約に批准するとかは、その気になればすぐにできる現実的な選択肢だ。有権者は言葉の奥底にある政治家の情熱と本気度を知りたがっている。

 憲法や消費税など国の「かたち」を左右する争点が多く、一票が重みを増す今回の衆院選。候補者を見極める有権者も試される。

 米国には笑えない、こんなジョークがある。「悪い政治家をワシントンへ送るのは、投票しない善良な市民たちだ」。傍観者でいるわけにはいかない。

 

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