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全国

「踏み絵」民進を分断

2017年10月4日 紙面から

 民進党が合流した希望の党が3日、衆院選の第1次公認候補者を発表し、民進出身者の身の振り方がほぼ固まった。小池百合子代表が提示した政策協定書という名の「踏み絵」を突きつけられ、希望での立候補がかなう人、反発して無所属で出馬する人、同日設立された立憲民主党から出馬する人とさまざま。それぞれの決断を、有権者はどう受け止めるのか。

■希望かなって

 「ほっとした。やっと説明できるようになった」。希望の公認が下りた愛知13区の大西健介さんは、愛知県安城市で語った。

 希望への合流を受け入れたのは自民一強への対抗策として。「自分だけ生き残るのなら民進でもいい。一強多弱の現状を変えるにはバラバラでは勝てない」

 一昨年、安倍政権が推し進めた安保法制には反対だったが、今は「北朝鮮の脅威が迫る中、現実的な安保政策は必要」と話す。支持者から「個人としては応援するが、希望には投票しない」と不満も聞こえる。「(有権者の中で)離れる人、希望に期待する人のどちらが多いか分からない」と不安もある。

■政策合わず

 三重2区の中川正春さんは会見で無所属での出馬を表明。「安保法制は憲法違反。ずっとこだわってきた」と述べた。希望のやり方を「(公認決定の)過程に排他主義があった。幅広い主張を包摂しないと自民に対抗する政党にはできない」と語った。

 合流が決まった九月二十八日、中川さんは「安倍政権を倒すため希望に行きます」と語り、旧日本新党の同僚だった小池代表を「素晴らしい政治的勘の持ち主」と持ち上げた。だが、中川さんは安保法制を憲法違反と主張し、外国人参政権にも賛成の立場。政策の違いを指摘されると、「私たちの政策も希望に持って行く」と意に介さなかった。

 三十日の街頭演説では「名を捨てて実を取る」と自身の合流にも理解を求め、ポスターの民進党の文字の上に希望の党と書いたシールも貼った。だが、野党共闘をつないだ市民団体は「一緒に安保法制反対の演説をしたのに」、支援する県議も「おぼれる前に希望という船に乗ろうとしている」と批判を強めた。

 中川さんが「(希望の)政策次第では無所属もありうる」と態度を変えたのは、今月二日夜。当初の政策協定書にあった「安全保障法制の容認」の項目を見て、合流しない決断をした。

■選別に反発

 愛知3区の近藤昭一さんは、枝野幸男元官房長官が結成した「立憲民主党」へ参加する意向を固め、街頭演説で「枝野さんと一緒に頑張りたい」と語った。

 当初は「もう一度政権交代を実現させるためにまとまっていかなくては」と合流に前向きだった。しかし、小池代表の「排除の論理」に、二日朝には「支援者からも行かない方がいいとの声が多い」と態度が変わり、自らも「行かない」と明言。政策の違いから「選別」され、公認されないだろうとの見方も示した。

 3区からは名古屋市議が希望公認で出馬する見通し。近藤さんは「リベラル勢力を壊す選別をして、対抗馬まで立てるとは」と複雑な表情を浮かべた。

■希望かなわず

 「捨てられたと思った」。公認を見送られた岐阜1区の新人吉田里江さんは、あぜんとした表情。それでも「守りたい地域の皆さんがいる」と無所属で出馬する意向を示した。

 九月二十九日朝、いち早く小池代表のカラーである薄緑色のジャンパー姿で街頭演説。「しがらみのない政治を」と小池代表のフレーズも盛り込み、希望に染まる決意を見せていた。

 民進党岐阜県連は立候補予定者を一括して公認申請。だが、二日朝、本人に党本部からかかってきた電話は「2区なら公認する」。理由の見当はつかないが、1区は小池代表の盟友とされる自民前職、野田聖子総務相の牙城。県連幹部は「何か特別な事情でもあるのだろうか」といぶかる。

■なぜか公認

 長野1区の篠原孝さんは、安全保障法制や改憲の容認はできないとして、政策協定書の提出を拒否したのに公認された。篠原さんは「くせ球が返ってきた。希望に行っても主張や政治姿勢は変えない」。支持者から無所属出馬を求める声もあり、意見を聞いた上で、四日にも希望か無所属かを判断する。

 (衆院選取材班)

◆有権者は見極め必要

 <一橋大の加藤哲郎名誉教授(政治学)の話> 「寛容」と言ったり、「排除」と言ったりするのは、時々の空気をうまく読む小池氏らしい。どう見極めるかは有権者の成熟度の問題だ。彼女のこれまでの信条や発言の変遷を見ておく必要がある。綱領や規約すらない急ごしらえの政党の体裁を保つため、政策協定書を作るのは小池氏としては当然だとは思う。民進党の前職議員を縛る意味でも必要ということだろう。本来なら民進党代表の前原誠司氏や連合、小池代表の間で政策協定を作っておくべきだった。都知事選、都議選で既存勢力に対抗し、しがらみがないフレッシュな魅力をPRした成功体験のイメージが人気の要因ではないか。

◆常軌を逸した協定書

 <上智大の中野晃一教授(政治学)の話> 「寛容」と言ったのはできるだけ間口を広げて民進党を丸のみし、政権交代できる態勢が整えば自分も出馬しようという算段だったのだろう。その後、政権交代は難しいと踏み、排除の方向に動いたのだと思う。政策協定書は金額も使途も示さず金を出せとか、具体性もないまま改憲に賛同させるなど白紙委任させる内容で、常軌を逸している。民進前職の退路を断った上で奴隷契約を結ばせるようなやり口だ。立候補予定者の言論の自由まで奪ってしまう恐れがある。人気の理由は、結果が出る前に新しい話題を次々につくって、メディア露出をし続けていること。安倍政権とも共通している。

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