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「なぜ、いま」疑問解けず 首相会見

2017年9月26日 朝刊

 北朝鮮の脅威や少子高齢化対策を衆院解散の「大義」と訴え、「国難突破解散」と大見えを切った安倍晋三首相の二十五日の記者会見。しかし、国民の不信を招いた森友・加計(かけ)学園問題には短く言及しただけで、悲願とする九条改憲には一言も触れなかった。

 午後六時、東京・永田町の首相官邸。無数のフラッシュを浴びながら壇上に進んだ安倍首相は、自身が推し進める経済政策アベノミクスの成果から語りだした。

 「六・四半期連続でプラス成長を実現した」「二百万人近くの雇用を増やした」…。

 深い青のネクタイに濃紺のスーツ姿で、百人を超える報道陣を見渡しながら話を進めた。「最大の壁にチャレンジする」として、消費税増税後の使い道を子育てや介護政策の充実に充てると胸を張った。「生活に関わる重い決断。国民の信を問わなければならない」

 ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮問題に触れると、口調はより熱を帯びた。区切りをつけた話しぶりはいくぶん早口になり「挑発はエスカレートし、脅威は現実的になっている」と強調。国際情勢が不安定な中での解散に批判が強まることを意識してか、「選挙(の時期)が、脅しで左右されることがあってはならない」と先回りした反論までしてみせた。

 能弁さが影を潜めたのは、不透明な政策決定が疑惑を呼んだ森友・加計学園問題に話が及んだときだ。「国民の大きな不信を招いた」と切り出したものの、直接の言及は一分弱。「閉会中審査に出席し丁寧に説明した」と、幕引きとも受けとれる言葉が出た。

 四十分の記者会見は首相の冒頭発言が二十分を占め、多くの記者の手が挙がる中、質問は五つだけで打ち切られた。

 その一つ、東京都の小池百合子知事が代表となる新党「希望の党」に関する質問。会見中、唯一の笑顔を見せた首相は「希望というのは良い響きだ」と答えた。そして「安全保障、基本的な理念は同じだろうと思う」と続け、改憲勢力と目される新党に秋波を送った。

◆北の脅威で大義示す

 <政治家の発言戦術に詳しい名古屋外国語大の高瀬淳一教授(情報政治学)の話> 大義がないといわれた解散に、あえて税の使い道、北朝鮮の脅威という「大義」を示そうとした。「革命」「国難」という言葉で情緒的にあおり、改革の旗手だとアピールしたのはよく練られた会見内容だ。

 「国難突破解散」は大げさな印象を持つが、北朝鮮の脅威に不安を感じる有権者には響く可能性がある。ただ、「厳しい選挙になる」との口ぶりからは、小池都知事の新党に風が吹くかもしれないという危機意識も垣間見えた。

◆社会保障で焦点隠す

 <名古屋学院大の飯島滋明教授(憲法学)の話> 安倍首相が改憲に触れなかったのは、焦点をずらすいつものやり方だ。これまでの選挙でも経済政策を最大の焦点に挙げ、勝った後に信任を得たとして安全保障関連法制を進めた。今回も社会保障を焦点にすると言って、選挙の後に改憲を進めるつもりだろう。

 解散は憲法上、主権者の信を問う国民主権の実践としての意味を持つ。森友、加計学園問題の追及を避けるための解散であれば、議会制民主主義にも反する。いずれにしても憲法をないがしろにしている。

◆有権者、政策転換に理解も

 安倍首相の記者会見を市民はどう受け止めたか。自宅のテレビで会見の中継を見た名古屋市の主婦中沢和子さん(49)は「大義がない、という批判に対する説明になっていない」と印象を語った。

 三人の子を育てる中沢さんは安全保障関連法への反発から、改憲などに反対する市民団体に参加。首相がどんな言葉で語るか注目していたが、改憲についての発言はなかった。「選挙で争点にせず、『後でやらせてもらいます』なんてなったら、恐ろしいです」

 初めての投票を控える愛知県一宮市の高校三年浅井美乃(よしの)さん(18)も「改憲は今のところ賛成とも反対とも言えないけれど、だからこそ考えをはっきり聞きたかった」。友人と一緒に動画サイトで中継を見ながら、高等教育の無償化について「実現したらいいね」とお互いに感想を話した。

 長野県安曇野市の障害者福祉施設職員、百瀬朋子さん(51)は「『なぜ、今』が最後まで分からなかった」。首相が強調した「全世代型社会保障」を「響きはいいけれど、それって当たり前のことでは」。

 岐阜県高山市の会社社長森孝徳さん(33)も「消費税の増税分の使途変更が争点なら、今、解散する必要があるのか」と疑問を抱きつつ、「北朝鮮問題で強い姿勢を国内外に打ち出したのは素晴らしい」と語る。

 解散時期に理解を示したのは、大津市の建築会社社長若吉亮一さん(59)。「悲願である改憲のために与党の議席を維持するタイミングという意味でも良い解散」と評価する。

 解散理由の一つに挙げられた少子高齢化対策について、三重県志摩市で自治会長を務める山崎勝也さん(72)は「喫緊の課題なのは確か。政策の転換は理解できる」と話した。

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