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静岡

参政権、教育、移住に壁 浜松のブラジル人訴え

2017年10月19日 紙面から

◆「国籍だけで、なぜ」

外国にルーツがある子どもたち向けの学習支援教室で勉強する生徒たち=浜松市中区で

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 ブラジル国籍の住民が八千八百人余と政令市で最も多く、二万二千人以上の外国人が住む浜松市。今回衆院選では、各党から外国人政策の公約はほとんど聞こえてこない。海外出身の人々の暮らしを支える活動をしている同国籍の市民は、今回の選挙をどう見ているのか。

 初めての衆院選投票を控えた静岡文化芸術大二年の宮城ユカリさん(20)は「多様性を認める社会を目指す人に票を入れたい」と話す。ブラジル・サンパウロ市生まれ。日本と二つの国籍を持つ「二重国籍」者で、選挙権を持つ。

 八歳で来日。父は自動車部品工場で働き、母は介護職に就く。大学では同じ境遇の高校生の進路相談に乗るなどの活動に取り組む。

 本当は「二重国籍のままが良い」と思う。だが、日本は重国籍を認めず、選択の期限は一年半後に迫る。日本国籍の選択が「ブラジルを捨てるわけじゃない」ことは分かる。でも−。心は揺れている。

 希望の党の小池百合子代表は、民進党からの入党希望者に外国人地方参政権に反対する政策協定書への署名を義務づけた。「たった国籍だけで、なぜ」と疑問だ。夜中に日本語を勉強するブラジル国籍の母を目に浮かべ、こう思う。「国籍だけで排除してほしくない。共に暮らす一人として認められないのか」

 外国にルーツがある子どもの学習教室を二〇〇八年から開いている日系二世の金城アイコさん(54)。教室には不就学児も通う。

 金城さんによると、出稼ぎの親の一部は短期滞在を前提に子どもを学校に通わせないことがある。母国の経済状況などから「出稼ぎが三年、四年と延び、子どもの教育は手遅れになる」。不就学児は浜松市では減っているが、他市では依然多いという。

 外国籍の子どもの教育は憲法に規定がない。「子どもは誰でも勉強する権利がある」のに、その権利は「今とても守られているとはいえない」。自身は投票権がないが「『外国人』ではなく市民として活躍できる社会を」と国の支援を訴える。教室では通学希望者の順番待ちが続く。

 国内に五人だけのブラジル国籍の外国法事務弁護士石川エツオさん(56)は、衆院選で「外国人のことを取り上げて」と要望する。一九九〇年の入管難民法改正以来「受け入れ態勢は何も変わっていない」。

 二十八歳で来日。工場勤務などを経て弁護士事務所を開設。在浜松ブラジル総領事館誘致にも尽力した。

 出稼ぎ労働者が社会保険の不備などで不安定な働き方をする事例を何度も見た。「会社も国も一時的な労働力としか見ていない」

 国内では、治安悪化などを理由に移民に否定的な声も根強い。だが「外国人側も滞在が一時的でないと思えば意識も行動も変わる」と石川さん。「受け入れ実績を積み上げ、地方から政府の意識を変えなければ」と話し、社会の関心が高まることを願っている。

(佐藤浩太郎)

 <外国人参政権> 日本国籍を持たない者の参政権は国政選挙、地方選挙ともに認められていない。地方自治体の住民投票では、一部で認められている。国立国会図書館の調査によると、フランスやドイツなどの欧州連合(EU)加盟国は外国人の地方参政権を域内で互いに認めており、韓国でも2005年、永住資格を取得して3年以上経過した外国人に地方参政権を与えた。法務省入国管理局によると、在留外国人数は6月末時点で247万1458人。12年から増加傾向が続き、昨年同月比で7・1%増えた。

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