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静岡

企業の現場から 売り手市場

2017年10月18日 紙面から

◆新卒採用 苦しむ中小

 人口減少などを背景に就職戦線で学生側に有利な「売り手市場」が続く中、地方の中小零細企業は業績が好調でも、新卒者の求人が集まらないという苦難に直面している。政府の「地方創生」の掛け声もむなしく、人材の東京一極集中に歯止めがかからない。

 「新卒の採用が厳しいとは思っていたが、これほどとは…」。システム技術総合商社「電興社」(浜松市南区)の山内理之経営企画室長が打ち明ける。来春卒業の大学生二〜四人を採用する予定だったが、現時点で採用の見込みはゼロだ。

 七月までに四人に内定を出したが、その後、大手企業の採用が本格化すると、大手の内定を取り付けた学生たちが、次々と辞退した。山内室長は「大企業は安定しているイメージがあるためか」と悔しがる。

 会社の規模は大きくないが、設備投資の受注が増えており、業績は好調。工場の自動化システムを手掛け、今後も有望との自負がある。「内定後の学生との接点を増やし、自社の魅力を丁寧に伝えていく」と話す。

 工作機械製造や自動車部品加工の桜井製作所(同市東区)は、一定数の採用を続けてきた指定高校からの応募が今年は少なく、現時点で高校生の内定者は一人。今も募集を続ける。

 総務課の山田哲生係長は「長年関係を築いてきた指定校からも人が来ないなんて」と驚く。高校側からは「大手企業が採用を増やしており、人材を出せなくて残念だ」と説明があったという。

 業績は好調。自由に意見を言い合える風通しの良い社風も自慢だ。そうした魅力をアピールするため、今年から、高校生の企業見学の受け入れを再開したほか、大学向けのインターンシップ(就業体験)も開き、早い段階からの学生との関係構築に努めている。

 さらに規模が小さな企業になると、大手就職サイトに自社情報を載せるための多額の費用が出せず、採用の土俵にすら立てない。関係者は「資金力がない会社は人が集められず、会社を畳むしかないケースが出てくるかも」と心配する。

 中小企業の採用難の背景には、都市部の大企業が採用に積極的で、学生が流れていることがある。政府は地方創生を旗印に、二〇二〇年までに東京圏と地方の人口の転出入を均衡にさせる目標を打ち出したが、昨年の東京圏への転入超過は十一万七千人。有効な対策を打ち出せず、一極集中に歯止めがかからない。

 静岡経済研究所(静岡市葵区)の望月毅主席研究員は「二〇年までは東京五輪関連の仕事が多いため、静岡から東京への人材流出の傾向は止められない」とみる。学生を振り向かせようと知恵を絞る県内企業や経済団体の前に、大きなうねりが立ちはだかる。

(伊東浩一)

◆7割は採用継続中

 県内企業にとって、人材確保は深刻な経営課題となっている。公益財団法人「就職支援財団」(静岡市葵区)が県内企業を対象に八〜九月に実施した調査によると、採用の意向がある企業の70・2%が、大学生らの就職戦線が一段落する夏場を過ぎても採用計画人数が集まらず、採用活動を継続している。規模が小さいほど活動を続ける企業が多い。計画人数を充足できると見込む企業は25・4%にとどまる。

 人材が集まらない一因に学生の大都市志向があるとみられる。県によると、調査方法が変わったものの、県内出身大学生のUターン就職率は一九九五年に63・9%だったのが、昨年は40・6%まで下がった。

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