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静岡

企業の現場から 経済政策

2017年10月17日 紙面から

 投開票まで一週間を切った衆院選は、経済政策や地方創生の在り方も問われる。企業の業績や雇用情勢は改善しているとされる中、県内の中小企業の現状を報告する。

◆部品工場 変化に備え

社員と打ち合わせをする鈴精機の鈴木忠利社長(左)=森町で

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 金属を削る音が鳴り響き、工作機械から光沢のある部品が次々と製造される。二輪車の試作部品や金型などを手掛ける鈴精機(森町)は、従業員十二人の町工場だ。最近の業況について鈴木忠利社長(54)は「仕事そのものは、暇という状況ではない」と語る。

 二〇〇八年秋のリーマン・ショックは、静岡県内の自動車産業にも大きな打撃を与えた。鈴精機も受注する仕事が減り、売上高が三割ほど落ち込んだ。その後、企業展示会や商談会に積極的に参加し、販路開拓に努めて取引先を増やし、仕事量は持ち直しつつある。光沢を出す金属切削技術を生かして住宅用表札を作る個人向けのサービスも企画し、事業を広げようと試みている。

 一二年十二月に発足した第二次安倍内閣は、経済政策アベノミクスの柱に大規模な金融緩和を取り入れた。日銀が国債などを買い入れて世の中に出回るお金を増やしたことに伴い、為替市場で円安が進んだ。海外で事業を展開する企業にとって追い風となり、東証一部上場企業の純利益の合計は過去最高を更新。リーマン・ショック前の水準を超えた。

 鈴木社長はそうした状況を歓迎する一方で、「アベノミクスの恩恵が自分たちにも直接あるかというと、実感は薄い」とも。仕事の増加とともに売上高は増えているが、利益率はリーマン・ショック前の水準よりも低いという。全国で働き手が不足する中、人材を確保するために就職情報サイトなどを活用して求人を出すが、経費もかさむ。今後、電気自動車(EV)の普及とともにエンジン関連部品の需要が減るなど、産業構造の変化も予想される。「変化にいかに対応するか、強く意識しなければならない」と危機感を抱く。

工場で社員と語り合う橋本エンジニアリングの橋本裕司社長(左)=浜松市浜北区で

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 将来への危機感は、ほかの中小企業も共通する。二輪・四輪車の試作部品や金型などを製造する橋本エンジニアリング(浜松市浜北区)の橋本裕司社長(50)は「電動化に対応し、技術力を強化する必要がある」と話す。EVの航続距離を延ばすための軽量化ニーズに応えようと、マグネシウムやチタンなど軽量素材の研究に取り組む。

 同社もリーマン・ショックで経営方針の変革を迫られた。売上高は前年の半分に落ち込み、人員削減に踏み切った。「従業員の生活を守れなかった。二度とリストラはしない」と、大手一社の仕事に依存する体質を見直し、取引先の開拓に努めた。成長が見込める介護・医療分野にも着目し、県内企業と連携して軽量車いすの商品化も進める。

 足元の売上高は増えているが、「利益率はリーマン・ショック前の水準に達していない」と橋本社長。研究開発費がかさんでいるのが主な要因だが、「脱下請け」を目指すための必要な投資だ。「新しいものを生みだし、世の中に広めようとする中小企業への支援を充実させてほしい」と政治に求める。

(西山輝一)

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