静岡
2017年10月16日 紙面から
各党の経済政策について考えを示す望月毅主席研究員=静岡市葵区で |
衆院選では、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に対する評価や消費税率10%への引き上げの考え方も、有権者の重要な判断材料となる。静岡経済研究所(静岡市葵区)の望月毅主席研究員に、各党の経済政策について聞いた。
−アベノミクスの静岡県内の経済への影響は。
「効果があった。金融緩和で一気に円安が進んだ。それまで超円高に苦しんでいた製造業が、一ドル八十円から百十円まで円安が進み、息を吹き返した。県内は海外輸出型の製造業の比率が高いので好影響となった。ただ、金融緩和のために、日銀が買い上げた国債をどう処理していくかの出口が見えない。うまく処理しないと、国債が暴落してインフレ(物価上昇)になるほか、国債を大量に買っている金融機関の破綻も懸念される」
−個人消費は回復しているのか。
「そこがアベノミクスの一番の弱点。デフレ(継続的な物価下落)が解消できておらず、物価上昇率2%の目標も道筋が見えない。賃金が上がっていないため消費が伸びていない。ただ、県内でも自動車販売が伸びるなど明るい兆しはある。雇用環境も有効求人倍率が上がり、失業率が下がっている。新卒者は売り手市場だ。正社員の賃金上昇につながれば、本格的な消費回復に向かうだろう」
−自民、公明は消費税増税分の使い道について国の借金返済に充てる分を減らし、教育や子育てに回すとしている。
「増税はやむを得ないと思う。ただ、増税分の八割を財政再建に使うはずだったのが、五割程度に減ることは好ましくない。財政再建が遅れれば国際社会の信用をなくし、社会保障費の増大への対応が遅れる。選挙なので増税批判を緩和するために、バラマキに近い政策を出さざるを得ないのだろうが、予定通り財政再建に充てる方がいい」
−一方、主な野党は景気が回復していないとして増税の凍結、反対を掲げる。
「国民の格差解消を政策に掲げる野党が、増税中止を打ち出すのは分かるし、消費の悪化を防ぐ効果はあるかもしれない。だが、増税を中止しても消費は上向かず、むしろデメリットの方が大きい。これまで増税が延期されても、それが安心感となって景気や消費が上向くことはなかった。増税中止で景気が確実に上がるという根拠が弱い」
−今回の衆院選で注目している点は。
「アベノミクス路線の継続か、変化かの選択になる。日本経済の課題はデフレからの脱却や、大都市と地方、大企業と中小企業、産業間の格差解消だ。これらに処方箋を示す政党に期待したい」
(聞き手・伊東浩一)
もちづき・たけし 1965年11月生まれ、富士市出身。慶応大商学部卒。88年4月、静岡銀行に入行し、主に渉外業務を担当。94年11月、静岡経済研究所に出向した。県内マクロ経済や人口減少問題、産業構造を主に調査する。